ライオンの口から
緑の水あふれ
わたしは目を閉じる
ほとぼりの冷めぬ朝
男は後悔している
焼け爛れた野原に立って
ポケットに銀の
シガレットケースを
貼り付かせて
■
茫々とした美しい蟹が
さわさわと鳴る
「よく噛んでよく噛んで」
咀嚼された海燕のスウプが
大海へ流れ込む
野牡丹の花びらが
紫色の煙になり
シガレットケースに
仕舞われる
わたしは
よくある飲酒癖の放浪者にたずねる
道や信号の色の変化について
「パリでは…パンは棒ではなく船だ」
ゴム底の靴が鳴る
傘をとじる
■
船は下水道を通り
わたしの頭上に鰯雲をつれて
出現する ある日
5月は温めている
10月の家で沈黙を
植物を象った刺青は
地図そのものの様に
彼らを奥深く導く
枯葉の下で行われていること
狼の銀色の尻尾を
きれいに片付ける扉
■
昆虫が風にさらわれ
複眼が野ざらしである
シフォンの羽の粉砕
10月の呼気
地下鉄が乾いた音を立てはじめると
わたしは目を閉じる
男の背中にてのひらをあてる
嚥下運動のゆくえに耳をすます
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選出作品
作品 - 20091013_449_3862p
- [佳] crabe en octobre 十月の蟹 - はなび (2009-10)
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crabe en octobre 十月の蟹
はなび