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作品 - 20090805_922_3691p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


暴虐!怪人ホウセンカ男(Mr.チャボ、怒りの鉄拳)

  Canopus(角田寿星)

怒っている
しめった風の吹く夕方
私鉄沿線最寄り駅前「鳥凡」の店先に坐りこんで
怪人ホウセンカ男が
怒っている
風鈴の音色は不快にやかましく
日もまだ暮れないうちから
すっかり酔っぱらって
上半身は裸で 怪人ホウセンカ男が
怒っている

わめき散らし 周囲を睨みつけ
なあ そうだろーお と
遠巻きの野次馬たちに同意を求めるが
誰に何を言ってるのやら
見当もつかない
止めに入ったらしい戦闘員A氏が傍で傷んでいる
鳥凡のおっちゃんがカウンター裏で苦虫を噛みつぶしてる
ぼくは
急報で駆けつけたものの
つまりこの酔っぱらいをどうにかしろというわけですね
あまりな惨状に一瞬 呆然と立ち尽くした

怪人ホウセンカ男がカンシャクを起こすたび
頭頂部が噴火みたくはじけて
こまかい種が放射状に飛び散り
あいたたた
こりゃまたハタ迷惑な武器だと思う
戦闘員A氏と目が合った
これはフラワー団のミッションと…
「まったく関係ありません」
ということは勝手に酒飲んで酔っぱらって駅前で暴れてると
「チャボさんお願いです 殺さないでください
 悪のフラワー団幹部として
 きちんと更生させてみせますから」
わかった とりあえず黙らせるよ
さて
(たまには強いとこみせないとね)

ゴールデンチャボスペシャルブローが炸裂して
正義は今日も勝った
具体的には
殺せ 殺しやがれ
という声がしなくなるまで
目をつむって思いきり殴りつづけた
へんな体液がたくさんくっついて気持ち悪かった
怒ってんのは
お前だけじゃないんだ
と言おうとしてなんだか言えなくて
うつむいた

野次馬の人ごみのなか
正義の勝利をたたえるおざなりな拍手がぱらぱらと聞こえ
遠い日の出来事のように
ぼくはうつむいたままポーズを決める
チャボ かっこいい どこからか声がして
社交辞令とわかっててなお
泣きそうになる

じゃあ これで と
ぺしゃんこになった怪人ホウセンカ男をひきずって
駅前を後にした
ひきずられる体液がべったり舗道に染みこんで
なめくじの這った跡が
ぼくらのながい影といっしょになる
怪人ホウセンカ男は
いろんな液体で顔をべしょべしょにして
俺の人生てなんなんでしょうねと しゃくり上げてる
空には
無数のあかい凧があがってて
ぼくは口の奥でもごもごと反芻し続ける
ぼくらは
改造人間だから
人間のナントカとか存在するナントカとか
そんなものは もうないんだよ
そう
もう ないんだ
そうなんだ もう

文学極道

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