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作品 - 20090801_834_3677p

  • [佳]  01 - いかいか  (2009-08)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


01

  いかいか

(ハツカネズミは影絵を抜け出しパリで求婚する。)

 

 巣の中には、二人の娘が残り。一人は赤い髪の毛を結ぶことを当の昔に忘れてしまったかのように放り出したままぼんやりと外を見ている。もう一人は、黒い髪の毛を幼馴染のように優しく手の指くるくると回しながら床を見ている。二人がいる部屋にはいくつもの絵が飾ってありどれもこれも肖像画で一人の男性の顔が描かれている。男性の顔は旱魃で喘いだ土地のように深い皺で満ちており今まで一度も水の恵みを受けたことのないような乾ききった肌に大きい黒い瞳がその土地に雨が降らないようにまるで監視するかのように鋭い目つきでこちらを睨んでいる。

 瞳をめぐる物語をしよう。瞳がまだ開いていないころ、月の裏側には水銀の海があった。それは決して、観測されえない地図として、私たちの手元にあった。水銀の海では、多くの人々がいまだ分かれない形で留まったまま深く潜っていた。潜っていた瞳は、開かれないまま水銀に浮いていた。瞳を与えられた、人の中に、瞳を開いた人がいた。それは、初めて重力の喜びを知った思い出として、いつまでも私たちのまぶたの裏にある。瞼の裏に地図を描くこと―地図は鉛筆とコンパスでは示されない海を眺めていた―。初めて開いた瞳を閉じたとき、そこにはいくつもの影絵が見えた。暗闇の中で動く無数の影が踊っているのを、何がそれらを照らしているのか僕にはわからなかったが、優しく神が僕の肩を噛んだ。そしてその記憶を忘れた。

 

 (二匹のハツカネズミは求婚するために逃げたオレンジを探すために穴倉から外へ出る)

 

 男の乾いた土地を渡る風の間を二匹のハツカネズミが歩いていく。二匹の足取りは重く、足はあっちこっちへと方向を定めずに行ったりきたりを繰り返し、一向に先に進まない。雨の降る気配はなく、二匹の舌は最初の乾きを感じてからすでにもう、ゆっくりとこの土地の印を刻み始めていた。小さく裂けて、ひび割れていく舌の上に、またひとつ土地が開かれようとしている。男の目がその土地を見てさらに鋭さを増し、少しだけ喜び満ちる。農奴達が遠くからやってきて、二匹の舌の上で開墾を始める。男の瞳はそれを見つめている。一人の農奴が舌の上で死に、舌のひび割れた大地に帰っていった。その農奴の焼かれた骨をやさしく包む二匹のひび割れた大地に、男の瞳が閉じられた最初の月にようやく雨が降る。ハツカネズミは一匹となり、すべてを忘れる。初めての雨にハツカネズミの毛は濡れ、丹念に雨粒に折りたたまれていく。

 祝祭を祝う人々の群れの中に、一人の神が姿を現し、髪の毛を洗っている。神の髪の毛を洗う女たちがひそひそ声で、「今日、この方は結婚される。」と言っているのが聞こえる。「人間の男と、、、。」。神はその話を聞いていないかのような姿で髪の毛を洗っている。ところが、その神は男で、まさにこの男神は今から人間の男に抱かれるために、髪の毛を清めているのだと、僕はそれを見てひどく安心すると同時に、言い知れぬ恐怖に打ちのめされ、吐き気を催す。

 

 (ハツカネズミは一匹になりお互いのことを忘れる)


 スターバックスの緑の香り。アメリカの赤も、日本の白も、グアテマラの水色も、含まれていない緑の中に、一人椅子に座り、外のとおりを眺めている。椅子の一つ一つから湯気が沸き立つのは、使われている木材がすべて亜熱帯のジャングルから切り出されてきたものだろうか。息を吸い込む。隣に座る男女が笑顔で話している。二人の会話の甘い香りが鼻に入って、耳で噛み砕かれて言葉になる。外は突然の雨、多くの人が走り出し駅に向かっている。水は歩道をすべり排水溝へと行き着く間に、駆け出された足に踏まれるのではなく、その足を包むようにして、少しだけ地面から浮かばせる。雨が人々の足をやさしく包んで、少しだけ空中へ押し上げるとき、僕らは気づかないうちに重力を信じなくてすむ。

 ブレードランナーのように、と、昨日友人が話していたことを思い出す。その友人は、ワーグナーをなぜか信じている。それを日記に書き始めようとするがうんざりする。

 

 つまらないやめた


遠い国で中国女と出会う夢を見た。そこがどこの国かはわからなかったが、女はいかにもなアジア人のとんがった目つきで服を脱いでベッドに横たわっている。それを見て、僕はその女の肩に「狐が憑いている」と突然思う。女から離れて、椅子に座ると、女はそのまま眠りこけてしまう。すると、女の右手が突然上がり、手招きをしはじめる。扉が開く。男が入ってきて、中国女の布団にもぐりこむ。女が大きな声で言う。「この狐憑きめ!」と男を罵って、男は逃げ出すかのようにして退散する。

文学極道

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