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作品 - 20090722_762_3662p

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臍の緒

  はなび


台風がやってくる前の日の夕方 わたしは草履をはいて健ちゃんと商店街へ買い物にでかけました 衣の厚い天ぷら 天ぷら 天ぷら ばかりが並んでいる 定食屋 ビール 物干し ランニング ここにはUNIQLOがなく 速乾性なのはペンキだけで 揮発するシンナー 燃えるようなトタン屋根 陽炎 などがとても安い

暴力 というか 喧嘩 だったり 涙だったり 叫びだったり するもの達は 実はひとつなのだと 昨日知りました それらは 違うものとみなしていたほうが 世の中に分散してゆくので都合が良いのだと 健ちゃんは言います いろんな種類があるようですが ほんとうはひとつなのだそうです お墓の隣に ピンク映画しか上映されない映画館がありました それは神社の裏手に位置します

アスファルトに打ち水 鼻腔が反応します 眠っている猫の背中に鼻を擦りつけた時の匂いに似ている 似ている 似ている すきなものは みな似ている わたし以外のものはみな 健ちゃんに似ている 盛塩 玉砂利 濃紺の暖簾 引き戸をがらがら鳴らす 清潔な笑顔 ここの天ぷらは紙細工みたいに 夏のお魚を抱っこしてるから 残酷なことと幸福なこととのアンバランスが よく似合うのかもしれません 

台風の夜はよく眠ります 貪るように貪欲に眠るので ながい ながい ながい おそうめんを啜る夢をずっと見ました 口笛をふきながら啜っていると おそうめんは 熟成しながら何か別のものに変化しようとしていました 体内に流れ込んだおそうめんは お腹の中でだんだん膨れあがって もう破けそう

台風がやってくる前の日の夕方 わたしは草履をはいて健ちゃんと商店街へ買い物にでかけました 買い物はしないまま ごはんを食べて家に戻りました ながい ながい ながい 商店街を歩きながら 健ちゃんは いろんな話をしてくれました さいごに また旨いものでもくいにいこうな と言って 大きなてのひらでわたしの顔をさわり 焼けた石の匂いがしたのと同時に青い夜がやってきて わたしたちは笑顔でわかれたのです

文学極道

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