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作品 - 20090718_678_3653p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


屋根の上のマノウさん(改訂版)

  Canopus(角田寿星)

そうして空にはいくつもの
ちいさな泡のような放物線と
とんびと
海のむこうの出来事が
屋根の上にはマノウさん
わたしたちは
目を閉じて見上げよう
歩道沿いにはあやめの花壇が
街角のアパルトマンには
大きな鏡が

マノウさんは屋根の上にいる
むくどりが鳴いてやかましい
あるいはホイッスルかもしれない

長い腕をした
山からの風がふいて
タバコの灰は はらはらとこぼれ
砂に埋もれるようにわたしたちは眠る
親しく思っていた
顔を持たない人から
「ちいさな善意や励ましや何気ない笑顔が
 どれだけ人を傷つけているのか
 考えたことがあるか」と
吐き捨てられる

マノウさんは屋根の上にいる
はにかむように
かるい会釈だけのあいさつを交わす

昼下がりの青空には真っ赤な鉄塔が
もみじ色の夕暮れには緑の浮き島が
夜には 汽車のあかりが
わたしたちは
目を閉じて見上げよう
もしかするとわたしたちにも
見えるかもしれないから

誰かを焼いてるたなびく煙とか
伏せられたままの写真立てとか
泣きながら迷い子がさがし求める視線の先とか
公園のベンチから立ち上がれない若者とか
人知れずついたわずかなためいきも
過ぎたことを悔やみつづける声も
手をはなれてただよう風船とか
これでもかと言うくらいあたたかい空だとか
屋根の上でどこかを見ている
マノウさん
とか

文学極道

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