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作品 - 20090529_747_3551p

  • [佳]  粘土 - 田崎  (2009-05)

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粘土

  田崎



水面に映る赤褐色の肉体に 覗きこむものの顔がふやけ、千切れ、ぼやけ
  (節度ある顔が汚れた声を発している)
草原で 撫でるように刈られ
息を吐き終えた架空の草
それがはらりはらりと水にも汚れる
  (幽かな手招き)
遠く 粘土が音をたてて、一歩一歩歩いている
  (私の手だって 汚れていない訳ではないのだが)
粘土は誰もの母親のようでもあり 死んでいるのか生きているのか
どちらとも言えない人のようでもあった
草原の刈り取りは 私が幼かろうと行われて然るべきだが
水が振り切れるように開花する頃に
音よりも光よりもはやく起こってしまってもいい
いいとは言え 今は私にはなにも言えず
粘土が幾人か 私の知らない国のことばで
悦ぼうとも 叫ぼうとも
万が一 恥じようとも
どこかで見た、厳かな振りをして 知らない国のことばを
  (間違いなく、知らない――)
草はことばとなり
水に合わせて息をし 時を待たず息たえて
汚れた架空のイメージを 私の許可も求めずさらに汚し
  (元から汚れていないのが想像できないくらいで
   却って美しいと思えなくもなかったが)
幼い私はそこで止まると
止まり切らずに捻じ曲がっていた

文学極道

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