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作品 - 20090415_031_3465p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ひとひら

  泉ムジ

ポータブルプレイヤーのディスクトレイを開くと、回転するディスクが明かりを反射して
きらめき、停止した。ラベルの無い表面に映り込んでしまう顔を決して見ないようにする、
それがどれほど曖昧にしか鏡として機能しないものだとしても。邪魔になった眼鏡を外し
レンズを不織布で拭いケースに入れ、小さな液晶モニターの黒い海を泳ぐ白いロゴ/電圧
による分子配列の変化がもたらす滑らかな動き/何も表示するものが無いことの表示/が
さっきまでそこに在った彼女の顔のように見えるけれど、さっきまでそこに在ったのも電
圧による分子配列の変化がもたらす滑らかな動き、彼女の顔の「表示」でしかなかった、
と同時に彼女の不在を示すものとして在るのだった。わずか1分にも満たない映像の中で
「ちゃんと撮れてるー? なんか……、恥ずかしいな」語りかけてくる彼女は風に抗って
右手で髪を左手でスカートを押さえ膝をさらし/夏だ/過去の夏/逆光で顔がよく見えな
い「逆光で、顔が」「わかったー」円周をなぞるように駆ける彼女の横顔に光が射してゆ
くのを追って「あ……」唐突にぶれる、空。右下から飛行機雲が伸び始める。「だいじょ
ぶー?」「ん……、空」白線がモニターの左上を貫いて「どこまでも伸びてくねー。きれ
いだなー」右手を額にあててまぶしそうに空を見上げる彼女をずっと、ずっと映したまま
終わる。始まりも終わりも「切り取った」ということを示す断面である。「おじいちゃん
またそれ見て泣いてるー」夏休みで帰省した孫が肩に腕をまわし全体重で負さってくる。
「おおっ、大きくなったなー」「えー! あたし太ったー?」まだそんなことを気にする
歳じゃないさ。「まだそんなことを気にする歳じゃないさ」彼女に会いに行こう。彼女の
若い頃によく似てきた孫を連れて。「さあ、ばあさんの墓参りに行こうか」「うんっ!」

文学極道

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