交差点で立ち止まると
二度と信号が変わらない気がして
アスファルトをすり減らし
ポケットの硬貨を折り曲げ
黒目が裏返ったとき
明かりがともる 。
夜に
引きずり込まれ
潜んでいた声とともに
溢れてくるものたちを
かかとの外れてしまったスニーカーで
踏み潰してもふみつぶしても
なお溢れ
車道にすべり落ちていく体液は
赤いあとをつけて
あなたの家に届けられる 。
やりきれなくて
溢れてきたものを
アスファルトのくぼみに埋めていると
いっそう濃くなった夜が
反転し
わたしは声を潜めていた 。
そして無数のわたしが
そこかしこの暗がりから
どうしようもなくはみだして
片っ端から捕らえられ
すりつぶされ
それでも
どうしようもなくはみだして
悲鳴を上げ続ける 。
はみだすわたしは
手遅れであることを知りながら
あなたの家の前の
赤いあとを
あなたが気づくより早く
消してしまいたいのだ 。
すりつぶされたわたしは
ポケットの中の
折れ曲がった硬貨が
数多の流れ星の一つであることを知っていて
夜は
信号が変わると同時に明けてしまう 。
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選出作品
作品 - 20090330_758_3424p
- [佳] 前夜 - 泉ムジ (2009-03)
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前夜
泉ムジ