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作品 - 20090306_470_3377p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


RJ45、鈴木、

  一条



わたしは新聞紙で人数分の兜をこしらえてみんなの頭にかぶせた、なんかスイ
カ割りでも始めちゃう気っすかと言って鈴木は兜の位置を今っぽく整えた、お
父さんも興味がなかったりあったりなんかしてとRJ45に言われてわたしは、今
っぽく赤面したが、RJ45にはわたしの思うところの今っぽさが伝わらなかった
ようだ



スペースシャトルが打ち上げられる時間になるとみんなが空を見上げていた、
ななじななふん、だけども、うちゅうがどこにあるのかだれもしらない、



あたいは鈴木のことがすごく好きだよ、汚物にまみれても鈴木を見てると胸が
クソになるくらいときめいて鈴木がなしじゃ到底やっていけないって本気で思
えてくるんだ、そんで鈴木に会えない日は「鈴木がなし」ってパソコンで入力
して画面に浮かび上がる鈴木をずっと見ているんだ、そうやってるとまるで鈴
木がそこにいるみたいで鈴木に話しかけたくなって、




娘が連れてきた男はとんでもなかった、妻は台所でキッチンをして義兄はいっ
ぱしの男を夢見てあれやこれやをいじっている、はじめまして、鈴木と申しま
す、外資系の証券会社でトレーダーやってまーす、ブルーンバーグの端末すげ
え並べちゃってますよデスクに、



あたいはそれで大きな小窓を作った、先っちょがとんがってて何よりも鋭いの、
その小窓から外を眺めると祖父でも祖母でもない人たちのオバケが声をそろえ
てソーファーソーファーってなかよく歌っている、なるほど歌声には生きてる
も死んでるも関係ない、それにしたってソーファーソーファーと繰り返すだけ
の歌をああやってずっと歌っているのはオバケだからやれるんだ、なんてタイ
トルの歌なのかしら、あたいだって近頃はうまく暮らしてるんだから、あんな
歌を歌うくらいいちころよ、ソーファーソーファー、ほらね



  音楽作って金稼いでモデルと結婚しよう
  そんでパリに越してヘロイン打ってスターとファックしよう
                           Time to Pretend



鈴木ってありふれた名前だしわたしは鈴木をRJ45と呼んでみようかなと思って
いるんだ、わたしがRJ45と呼ぶからといっておまえは今までどおり鈴木で通せ
ばいいし、RJ45が気に入ったなら気兼ねなくRJ45と呼んだっていい




あたいはボストンバックにありったけの下着を詰め込んだ、だれだってロード
ムービーみたいな旅をしたい



でもね鈴木あたいも近頃詩を書いてるんだよ鈴木が書いてたみたいに鈴木のま
ねをして詩を書いてるんだ、なんで詩を書きたくなったのかわかんないけど鈴
木の詩を読んで単純に泣けてきたんだよあたいも鈴木みたいな詩を書いてあた
いの詩が誰かをあたいみたいに泣かせることができたらいいなって鈴木に話し
かけたんだでもね鈴木あたい唐突だけど、



テレビは小春日和だかの特集で芸能人が秋葉原で起きた事件を神妙な顔で読み
上げている、妻は押し黙って義兄となにかはじめるようだ、まあ、それくらい
わたしたちの目の前に現れたこの鈴木って男ときたら



なながつななにちにたなばたつめがあたいが詰め忘れた一枚の下着のほつれを
機織りで補修している、あたいは出来上がるのをそばで待って、知らないうち
に眠ってしまった、機織りの音が鳴り止むと、あたいは目を覚まし、下着がす
っかり元通りになっていた




あたいは鈴木とつまるところで恋人っぽく抱き合った、鈴木はがらにもなく照
れてあたいは幸せだった、あしたはあたいが生まれた日だよって言うと、鈴木
は恥ずかしそうに笑った、なんでそこで恥ずかしがるのよとあたいは鈴木を問
い詰めた



  なんにも経験していない青春時代を思う
  ばかばかしくて楽しかった そんでとても素敵で若かった
                             Salad Days



その時間になると、みんなで空を見上げた、あたいはそわそわして鈴木もそわ
そわした、ねえねえそれって降りてくるのそれとも。妻は義兄のそばを離れな
かったけれど、わたしに言わせればそんなことはどうでもいい。みんながわた
しのこしらえた兜をまだかぶってくれているのだ、


トントン、トントン、トントトン、




あたいは元通りになった下着もボストンバックに詰め込んで家を出た、鈴木は
あいにく待ち合わせ場所には来なかったけど、あたいはいつも理由もなく幸せ
だった、だけど、死ぬかもよってだれかに言われたら死にたくなくなくない?

文学極道

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