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作品 - 20090206_053_3319p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


我儘なスイートピー その翻り加減

  はなび

blablabla…blablabla…

ちかごろの飲み屋の女の子の文句とかバブルの頃のエトセトラ
バカじゃないのあんた あんたが悪いって言ったら
すごく悲しそうな顔になって
そっか俺がいけないのかダメだなぁ…なんて言った
その言葉は私を泣かせた
とても乱暴な言葉を言ってしまって恥ずかしくなった
泣きたいのは俺のほうなんだぜと彼が言うので
私は本当に恥ずかしくなった

ゆうべその人と寝た理由は水中花になったような
気分にさせる時間の経過だったのだと思う

私は
パーティーでまあるいガラスの水槽にシャンパンを流し込み
そこに金魚を入れる様な類いのパフォーマンスがあるクラブで働いていて
ママとか他の常連のお客さん達はそういう事が好きだったし
なんだかそういう事で人が興奮したり癒されている景色は
店内の雰囲気にとてもよく似合っていた

私は
自転車でその店に通った
雨が降って濡れて帰ってもお店の熱気が体中からなかなか抜けてくれない
どんなに酔って帰っても眠る前に牛乳を沸かして飲んだ
ミルク臭い匂いがすると高校の時付き合ってた男に言われた

このところ激しい暴風雨が続いている

私は
タクシーで自転車と一緒に出勤した
自転車にはカゴがついているから普通車が迎えにきたらトランクのふたは開けっ放しにしないとならない
この嵐の中文句ひとつ言わないこの運転手変わった人だけどいい人なんだと思いチップをはずんだ
彼はチップを断った 私が若い女だという理由で

私は
親切だからと渡したチップを丁寧に断られた
親切の押し売りはよくないわと運転手に言ったからだと思う
タクシーは私の自転車をびしょぬれにしながらトランクのふたをふわんふわんさせて
都心の国道をまっすぐ進んでいた
運転手がずっと黙っているので私はラジオを聞き流していた
ラジオから聞こえる日本語はアジアの音声として耳元を通り過ぎた
どこか違う国にいるみたいだった 毎日ひどい嵐

高校生の時好きだった男の子に赤んぼうみたいな匂いがすると言われた
いつも寝る前にきちんとシャワーを浴びてあたたかいミルクを飲む
そうしないといつまでもお酒や話し声や笑い声が聞こえて眠れない

品のいい調度品とお金持ちだけど淋しい人達が集まって
小さな赤いおさかなの動きに見入っている
黄金の泡だけが水槽の中で生き続けてる

私は
どの水槽に生けれられた花なのか
あの人の顔は魚眼レンズで覗いたみたいに広がって真ん中になるほどとても近付いて見える
私はとても恥ずかしかった

「おまえは無知で恥知らずで責任がないからそういう事が言えるんだ」
そして彼はこんな事二度と俺の口から言わせないで欲しいと言った

私は
それまで知らない男になんか興味がなかった
一瞬だけ水槽から出られる気がした
とてもきれいなピアノの旋律が聞こえたから

文学極道

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