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作品 - 20090129_905_3297p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


クマのヘンドリックの「才能」

  ミドリ

窓ガラス越しに
空を透かして見てたとき
クマのポケットから
バナナがポトリと落ちた
つっかけの ビーチサンダルの上に

なんだお前 バナナなんか持ってきたのかよ
島のバナナは最高さ

指先でバナナをつまみあげると
彼はそいつポケットに戻した
ペンションから眼下を見下ろす
南の島の緩やかな坂道は
なだらかに海へと向かう
ぼくらが出逢ったのは
この集落に一軒だけある居酒屋だった

浜辺へ降りるとクマのヘンドリックは
海水に手を伸ばし
ギュイと魚を掴んだ
青い小さな魚の群から 一匹だけ
彼には妙な才能がある
長く一緒に暮らしていると
時々驚かされることがある

あるとき仕事で一緒に大阪に行くことなった
満員の地下鉄でヘンドリックはつり革につかまっていた

初めてかい?
ギュウギュウじゃないかっ

ぼくらは小声で囁きあった
満員電車の中で
大柄な彼は
お腹まわり人ふたり分の空間を占め
苦しそうに肩をすぼめてた

こんな仕打ちを受けるなら
一緒にくるんじゃなかったよっ

吐き捨てるように彼は言った
どのみちヘンドリックは
どこへ行ったって不満を口にする

あぁ確かに人間の乗り物じゃないね

クスリと笑いながらそう言ってやると
ヘンドリックは鋭く毒を吐いた

今の明らかに差別的発言だろ!

その時だ
小さな女の子が ヘンドリックを指差し
ママ!クマさんがいるよと言った
母親は困った顔をし
次の駅で降りましょって 眉をひそめた

ドアが開くと女の子は
母親のバックにしがみつき
こちらを見ながらヘンドリックに手を振った
ヘンドリックもまた
女の子に手を振りかえしてた

彼は
何もわかっちゃいない
おかしな奴だ
一部始終をそれとなく見ていた
周りの乗客たちが
顔を伏せ
笑いを押し殺しているのがわかった

ヘンドリックは
ドアが閉まって
電車が動き出した後も
女の子の小さな背中に向かって
手を振っていた

文学極道

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