住宅では繋がれた犬が叫んでいる
畑では白菜とキャベツが腐っている
僕は職業をさがしにいかなければいけない
それだから歩いている
切れ切れに飛んでくる黒い煙の
来し方見れば
給水塔の上で女が焼けている
黄ばんだ空にムクドリがつぎつぎ刺さっていく
電柱とビルディングが反りかえる
アスファルトのひび割れが刻々と近づいてくる
台所の小窓を閉めたかどうか
ガスストーブを消したかどうか
「アナタノイッサイヲアイシテイマス」
出がけにテレビが言っていた
郵便受けには極彩色のチラシが溢れていた
僕は職業をさがしにいかなければいけない
こめかみの方角
給水塔の上で女が焼けている
道路では街路樹が捻れている
路上に点在している人々が
バサリバサリとすれちがう
太陽はうす汚い
月は透けている
ふいの梅の香は
心底身に余る
この世は単純だ
僕が終われば
風景はない
僕は息をしている
風景を愛している
給水塔の上で
女の黒焦げの四肢が虚空を掻きむしっている
そのかたちのまま固定される
白いビニール袋が路面を滑っていく
2トントラックに轢かれ
しかしなにごともなく滑っていく
燻ぶりつづける女の
真っ赤な内臓のことをしきりに考える
舌がかってに口の中で動き回る
唾を吐く
僕は職業をさがしにいかなければいけない
それだから歩いている
最新情報
選出作品
作品 - 20090127_864_3291p
- [優] 給水塔の上で - 鈴屋 (2009-01)
* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。
給水塔の上で
鈴屋