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作品 - 20090119_648_3274p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


「またね」

  ミドリ


今はっきりと定義できることがある
グラスを突き出したミミに
ぼくは言った

バーの窓から見える
道端の畑に
馬鈴薯の花が開いているのが見え
ミミの目は
潤んでいた

彼女の赤いふくらみに
指を差し入れることができるのは
ぼくをおいて
他にいない

ミミの肩から
ストールがはらりと落ち

まるで砂漠に日に一本通う
満員のバスに乗ろうとして
取り残されそうになり
不安げな顔をしている
小さな少女のように見え

それがぼくが躊躇う
本当の原因だということを
まだ
何も知らない小さな女の子のように

ミミは
他の子とは
どこか違っていた
それを説明するのは
とても難しいことだ

バーの喧騒から
たった一つだけ
音色の違った声が
ぼくの耳に届く
それを説明することができたなら
ぼくはきっと
詩人になっていたことだろう

またね
そう言って
グラスをカチンと合わせる
それがぼくとミミの関係を定義できる
唯一の言葉だということを
説明することすら
ぼくにはできない
ついぞ繰り返される
ありふれた風景の中のふたりに

また産み落とされる
「またね」と
「じゃあね」が
ホロリと床に砕け落ち
涙のように潰れては消える

ミミ
聴こえるかい?
ココロとキオクは違う
オモイデも
ココロの一部でしかない

だから
明日を約束しよう
またね
うん じゃあねってさ

文学極道

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