#目次

最新情報


選出作品

作品 - 20090107_443_3245p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


ホーキンスさん

  一条

(1)

ホーキンスさんの顔はくしゃくしゃだった。ホーキンスさんをみているとこれくらいの年齢で人生を終わるのが楽ちんかもしれないと思った。外はまっ白になる一方で夕暮れになるとみんながそそくさと帰ってしまうこともしかたがないと思った。ホーキンスさんが眠りにおちるとあたしはアメリアを抱いて病室をあとにした。帰り道に厚手のコートが落ちていたらアメリアをほうりだしてあたしはたぶんそれを手にとってしまうような気がした

暴力団は水曜日になると決まった時間にやってきてあたしの家の近くでどんぱちをはじめた、あたしは人生のステップアップのために役に立つ資格をとろうとしてるんだけど、どんぱちが始まると勉強どころじゃなかった。それよりもあたしが言わなきゃいけないことは試験問題がじぜんにもれてたってこと。それはずいぶんとあとになってわかったことだけど、そのせいであたしの人生が台無しになったなんて嘘みたい


(2)

ホーキンスさんが病院でなくなってからあたしは毎日夢をみた。銃声がきこえて銃弾があたしの頭をかすめたり、銃声がきこえて銃弾があたしの頭をかすめたり、銃声がきこえて銃弾があたしの頭をかすめたり、銃声がきこえて銃弾があたしの頭をかすめたり、銃声がきこえて銃弾があたしの頭をかすめたりした。夢の中で起こることだってすこしくらいは現実になるのかしら、


(3)

アメリアは生まれたばかりの赤ちゃんだった。そしてアメリアはいまのあたしと同じ年齢になってそのころには午後三時にどこかへ出掛けるのがあたしたちのかずすくない日課でデパートの特売セールで購入した冷蔵庫が壊れた時に二時間くらい遅刻してやってきた修理工と結婚して生まれたのがアメリアでだけどもなんてことはなくてあたしは彼女にそのことは何度も説明した。だからといってあたしたちのあいだがぎくしゃくすることはなかった、

あたしがいくつかの届出をおこたったせいでアメリアにとっては不都合なことがつぎからつぎへと起きた。例えば彼女には本当の名前がなかったし、それであたしはアメリアと呼ぶことにしたんだけど、なんかの雑誌の表紙にのってたモデルの名前を借りたのだ。アメリアにそれを言うと、いつか返さなきゃ駄目なのって言ってたけど、アメリアに返すあてがあるのかはわからなかったし、ほとんど迷惑に思われるに違いない、どっちにしても。


(4)

ホーキンスさんの葬式が終わるとみんなはいちように退屈な顔で帰っていった。水曜日に葬式をしたのがそもそもの間違いなのだ。あたしたちは暴力団のどんぱちが気になってホーキンスさんの生前に思いをはせるまでに至らなかった。自分が死んだときには自分がどんな棺おけにいれられるんだろうってそんなことばかり考えてた。あたしもよとアメリアが言って、知らない女の子があたしもよとあたしたちのうしろから言ったのが聞こえた


(5)

ホーキンスさんが暴力団と敵対していたことは全国ニュースにもなったし世界中の誰もが知っている。それが原因でホーキンスさんは命を落としたのだ。


(6)

冷蔵庫の中には瓶がいくつかあって瓶の中にはピクルスがあった。それは家族のだれかの大好物でピクルスが合いそうなおかずの時にはあたしもよく食べたりした。瓶がからっぽになるとそれを冷蔵庫の中にもどして、あたらしい瓶がはいりきらくなってはじめていつくかのからっぽの瓶を捨てて、それを年中くりかえしているから冷蔵庫の中にはいつも瓶があった。そして瓶の中にはいつもピクルスがあった。


(7)

けっきょく、試験には受からなかった。筆記試験は三回目に合格してそのあと七回つづけて口頭試験でうまくいかなかったから。あたしが出会った面接官は合計二人でそのうちの一人とは街で何度かすれ違って気安く挨拶なんかしてみたけど、だからといってそれだけじゃうまくいかないもの。そのとき、事実上あたしは人生をはんぶんあきらめた。人生のはんぶんがどこからどこまでか決めることはもっと複雑だけど、とにかくあたしは人生のはんぶんをあきらめることを決意した

あたしはしばらく泣きそべった。だれのハンカチかしらないけどそれで涙をふいた。


(8)

いわゆる遺産というものはだれの手にもはいらなかった。それはホーキンスさんの遺書にも書いていないし、あとから知った話でもなかったけど、だれもがそう思ったのだから本当なんだろう。

ホーキンスさんがなくなる前の日にあたしはアメリアをつれてホーキンスさんの病室を訪ねた。なんにんかの看護婦さんに囲まれてホーキンスさんはとても楽しそうだった。アメリアは大好きな詩を朗読してホーキンスさんにきかせ、そのときだけはみんなしずかにアメリアの声をきいた。


(9)

暴力団はどんぱちをやめなかった。
それでも暴力団はどんぱちをやめなかった。



(10)

あたしはアメリアを寝かしつけるとドレスに着替え、家を出た。暴力団がどんぱちをやっていて、あたしは暴力団の中にはいって、

あなたたちのおかげで街はまえよりもずっとしずかになりました、ありがとうございます、感謝をしているのです、あなたたちがホーキンスさんと敵対していたことも知っているのですよ、ご存知のようにホーキンスさんはなくなりました、だからといってあなたたちがどんぱちをやめる理由などないというのもわかっていますしそれどころか気のすむまでおやりなさいなんてほんきで思っているのです、あたしは人生のステップアップのために役に立つ資格試験に何度もおちた女ですから、そんなおんながあなたたちの目の前でたいそうなことを言えるなんて思ってなどいません、だけど、今日があたしの人生の最後の日になる予感がしたんです、だからこんな色のドレスをあたしは着てるのです、考えてもごらんなさい、こんな色のドレスを正気で着れる人なんてだれがいましょうか、だけどもあたしはほんとうに正気なのですよ嘘とお思いなら撃ってくださいな、あなたたちがいつもやってるようなふうにあたしを撃ってくださいな、なにをかくそう、あたしは正気なのです、ただ人生のステップアップに失敗して、いまはこんなすがたなのにあなたたちになにかを言おうとしてるのです


(11)

その日は朝になってアメリアが目を覚ますと家にはだれもいなかった。ほんとうにここにだれかいたのかしらとアメリアは思った。もういちど寝ようとしたけどうまくいかなかった。もういちど寝ようとしたけどやっぱりうまくいかなかった。アメリアの部屋にはだれもいなかった。アメリアは起きあがるとホーキンスさんがむかしくれた手紙をつくえから取り出してよみはじめた。それはお母さんが昨日くれた手紙とまったく同じないようだった。アメリアは読みおわるとバカみたいって言ってもういちど寝ようとした、こんどはうまくいって、けっきょくバカみたいなのは


(12)

あたしだった

文学極道

Copyright © BUNGAKU GOKUDOU. All rights reserved.