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作品 - 20081222_282_3220p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


最後の朝食

  yaya

夜中の二時半にぼくは
ヤクザの幹部になって街の銃撃戦の中
ピストルで撃たれて倒れた
ちょっと痛かったような気もしたし、滲み出す血の色は
紅いような気もした
なんだかよく解らない状況だが
そんなことはよくあることで特別に不思議にも思わなかったのだが
目が覚めた 多分
ほんの一瞬だけ早く
夢も醒めた

目が覚めて不意に震えがきた
別に訳の解らない夢の状況に震えたのではなく、ぼくの経験によると
明らかに風邪の悪寒のそれだった
寒いのでストーブをつけて布団をかぶったのだが
目をつむると何故かヤクザになってしまうので
とりあえずぼくは奇妙な幾何学模様の天井を眺めている
子供の頃風邪をひくと母がきまってトーストにジャムをたっぷりとぬって
紅茶と一緒に持ってきてくれ・・・
と、これは谷川俊太郎の詩にあった一節だったか
独りの空想にまで見栄をはったってしょうがないか
そんな記憶はぼくにはないし
だいいちおふくろを「母」だなんて言ったこともないのだから
しかしトーストをカリカリに焼いてバターをぬってその上に
苺ジャムをたっぷりとぬって
あれはなんとも言われないほどうまいものだ
目をつむるとやっぱりぼくの肩口からは苺ジャムのように紅い血が
ドロっと流れて少し酸っぱい匂いをさせている

このまま夜が明けたら
ティーカップにお湯をはってトーストを焼こう
バターをぬって、苺ジャムをぬって
紅茶はティーバックでもいいから
ベッドの上に座って独りで食べよう
薄れていく意識の中でぼくはそう思った

文学極道

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