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作品 - 20081022_078_3096p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


クマの名前はヘンドリック

  ミドリ



クマは冷蔵庫をパチっと開けると
缶ビールを取り出し
プルトップを上げた
裸足で踏むキッチンの床はとても冷たく
クマがノコノコ歩くたび嫌な音がした

「ベルト買わなきゃ」

クマはぼくに言った

「お前みたいな腹回りのやつに
ピッタリくるベルトなんてないだろ」

クマはポッコリと膨らんだ自分のお腹を見つめ
悲しげな指先でそっとお腹を撫でた

「ダイエットしなきゃ」
「その前に昼間からビールは止めろ!」

クマと暮らして3年になる
彼の名はヘンドリック
免許証にそう記されていた
性格は悪くないが
役に立たないのがたまに瑕だ
何しろ炊事洗濯が全くできない
皿を洗わせりゃ しょっちゅう割ってしまうし
炊飯器の保温と炊飯のボタンの
区別もつかないありさまだ
但し
アイロン掛けはべら棒に巧かった
襟の皺をささっと伸ばし
袖口をすっとあて
袖のラインをパッチリと合わせ注意深く
皺にならないように
繊維に合わせすすっと伸ばしていった
ステッチのラインも綺麗に作った
誰にでも特技があるもんだ

昔クリーニング屋さんで働いていたことがある
ヘンドリックは遠い目をして言った
五月の海に二人で行ったことがある
二羽のカモメが遠くで鳴き
人は誰もいなかった

「泳げるか?」
「ああ よく晴れた気持ちのいい八月の海ならね
アメリカ大陸にタッチして戻ってきてやるよ」

ヘンドリックは自信たっぷりに言った
どうせデマカセだろう
ぼくは彼の横顔を見た

夜中 冷蔵庫の唸る音が聴こえる
ぼくはベットを這い出してキッチンへ向かった
クマがチルド室に頭を突っ込み
中の野菜を漁っている いやヘンドリックが
明かりをパチンとつけると
「何してるんだ!」と怒鳴った
「ビールは?」
ふやけた顔をしてヘンドリックが頭を上げた
「明日にしてくれ!何時だと思ってんだ!アル中かお前は!」

ぼくはプリプリして寝室に戻った

キッチンの床を裸足で踏むたびに思う
そこはとてもひんやりとしていて
そしてジンジンするくらい・・・イタイ

文学極道

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