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作品 - 20080920_575_3034p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


みんなあげちゃうモノガタリ

  右肩良久

謎々をあなたにあげる。決して解けない謎々をあげる。
春と秋しかなくても、割れた秋のかけらをあげる。細かなかけらを一つか二つあげる。それはイキモノのかけらかもしれない。
眠ったら眠りきれない過去をあげる。六本木の交差点でスピンターンしたマセラティの助手席。きりきりと見開いたブルーの瞳をあげる。
幻想とわからない幻想をあげる。すべすべをあげる。消えそうな猫はあげない。腕をあげる。脚もあげる。耳をあげる。爪をあげる。だから。

だから。

開かれたものを開く。サイレンの中の微光をあげる。スカーフに包んだ、小さいけど重いものをあげる。振り向いたらあげる。あっ、と叫んだらあげる。あなたからあなたにあなたをあげる。

ミシェルをあげる。ミシェルがタイトスカートの採寸に使った巻き尺をあげる。その時ガラスの扉の前を通った片足のひと。

(秋のツバメは
 掌で眠らせたまま
 もう、あなたにあげてしまった。)

文学極道

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