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作品 - 20080827_164_2986p

  • [優]  秋楡 - 裏っかえし  (2008-08)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


秋楡

  裏っかえし


白熱灯に垂直に交わる蟻の葬列が、足元を昏くする八月の終わりに、ようやく背中の
汗はひいて、アコースティックの空洞には、寒色の香気が満ちてくる。午後から雨。
二階の机の上のラジオは、今日の天気の寸評を述べると、少し押し黙ってから、四十
年前に死んだエリック・ドルフィーのMiss.Annを、甘食代わりに僕にすすめる。ラジ
オの隣でコーヒーの紙袋が、微かに音をたてる。風が吹きはじめたらしい。僕はガラ
スの密閉容器を探しに、階下へと下りていく。庭の秋楡の互生した葉。その鋸歯が切
り取る稜線は、曇天の低さを、葬列と平行に走る坂道を上り下りする人たちに告げて
いるかのようだ。昏い、足元で、蟻たちは次々と燃え尽きていく。棺のない葬送に終
わりはなく、密閉容器のガラスは、真昼の湿気を冷えた体に抱き寄せている。昨日よ
りもずっと前から、空に太陽はなく、机の真上で白熱灯は灯り、ラジオの影はそれ自
体で充溢している。やがてMiss.Annは終わるだろう。ソロも、即興も、葬送も、秋楡
の葉擦れの音に包まれて消える。半袖の腕に少しだけ肌さむさを覚えながら、そのよ
うな二階に僕は、ガラスの容器を携えて、戻ってくる。

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