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作品 - 20080815_883_2960p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


 ビー玉として

  殿岡秀秋

ガラス球の奥をのぞく
青や橙の羽根が開く
見る角度を変えると
幾重にも折り重なって
色彩の羽根が続いている
小さなビー玉の無限の奥行きに
少年は憧れる

ビー玉を増やすには
小遣いを溜めて買うほかに
自分のビー玉を賭けて
友だちと競技して
勝たなければならない
獲るか獲られるか
心臓が震える遊び

増えたときはいいが
ビー玉を獲られたときは
宝の山が崩れ
自分を囲んでいたものが消えて
残されたからだがみすぼらしく見える

部屋をビー玉で埋めるために
少年は海賊になろうとおもった
競技なしで
ビー玉を手に入れるために
戦国時代の刀を手にいれようと考えて
計画を友に語る

海賊が欲しがっているものは
黄金や宝石だと
幼い子を見るような目で
友はいう

そのとたんにビー玉は
色のついたガラス玉になり
ゴミと一緒に
母が捨てるのを
止める気力もなくなる

鬼ごっこをしていても
子でも鬼でも
どうでもいい気分になる
真剣さがないといわれて
友といさかいになる

憎しみが芽生え
友の顔から
彼の好きな女の子まで嫌いになり
ともに遊ぶことさえなくなる

そのころのままの顔に
ときおり夢で会うほかには
友の居所すらわからなくなった

半世紀を経て
ぼくはビー玉であることに気づく

海賊が欲しがる宝石ではないが
わたしにとっては
色あざやかだと
ぼくを認める人がいる

ぼくはその人のために輝く
面は凹み
無数の傷はついているけれども
指につままれて

文学極道

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