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作品 - 20080805_711_2939p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


クリーニング屋さん

  ミドリ



口にいっぱいヘアピンを咥え
髪をとめていた母を思い出す
クリーニング屋さんに 行くところ
その夏の日の午後
食べ過ぎて丸々と太った男の子が
わたしとぶつかった
いつかのことを思い出してしまう
その夏の日の午後のことを

わたしは生まれて初めて
エレベーターに乗った
男の子は赤い髪をしていて
どこか他の子と雰囲気が違っていた
とても生意気な感じだった
夕方の6時台
彼はマンションの屋上で犬を抱いていた
わたしは空がとても高いことを知った
マンションよりもずっと上の方
座る場所を確保するとわたしたちは
ポテトを頬張った
一言も口を利かなかった気がする
たくさん しゃべった筈なのに

赤い髪の男の子は
犬をぎゅっと抱いていた
そしてとても小さく
小刻みに震えている
今にも雨が降り出しそうだと
わたしたちは空を見て
空がとっても
近いことを知った
マンションの上の ちょっと先

口いっぱいにヘアピンを咥えた母を思い出す
クリーニング屋さんに向かうとき
その晴れた空が夕立に変わるころ
わたしはまた誰かに
ぶつかってしまわないかと
いつかのことを
思ってしまう

文学極道

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