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作品 - 20080805_707_2938p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


施餓鬼

  兎太郎

ぢいぢい燃えながら おちてくるせみ
餓鬼たちがわれさきに ひろって喰らう
滋養はすでに夏の日にすいとられ おちてくる
せみをいくらたべても 餓鬼の腹はむなしくふくらむばかり

ああ、きみはそんなに無防備に、
せみしぐれに髪ぬらし、樹をみあげていてはいけなかった。
きみは餓鬼にしがみつかれてしまったではないか。

きみを外科治療することもできないで 
ぼくは抜き身のまま 修羅のちまたをさまよった
それから巡礼のいく年月 山こえ海こえ谷をこえ あの縁この縁ほどいていった
いまでは無縁仏のむれのなか

千の燈明は 名も素性も顔もなくしたぼくたちの
影だけをよみがえらせる
あかるいお釈迦さまの胎内で 小学生のようなぼくたち
は臍のない かえるの腹みせあい わらっている
お釈迦さまのおはなしがはじまると きまじめに耳かたむける
 
ああ、きみにしがみついていた餓鬼はもう離れていったんだね。

ほほえみをうかべ合掌するきみの鎖骨のあたりにあかい爪あと
燈明でうるおう子宮
そのねばつく内壁に ぼくはそっと手をふれる  
きみとぼくとの縁はほんのいっときむすびなおされる

文学極道

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