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作品 - 20080730_630_2927p

  • [佳]  風底 - DNA  (2008-07)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


風底

  DNA

        風が、風が吹いているのだ、
         と不意につぶやいたなら
             きみは風たちを
       一歩遅れて知ったというのか

                たしかに、
        風は吹いているのであった
           台所の窓をあけると
               白い物体が
       滑って流しにおちたのだった

          きみはもう風にのって
     風が吹いているのだという手紙を
          風たちの色の自転車で
     風が吹いているのだという手紙を
            運んでくることに
     まっすぐな〈嫌悪〉をむける術を
          身につけてい たから

(細かくふるえながら
ぼろきれと
なっていく左手

     気が違ってしまった老いた犬と発
情、悪い情熱が次の(/)熱を呼びよせる三
度目の乾いた性交のあと、風の吹かない時間
を逆さまに思い出して、その左の手で弱々し
くぼくが作り上げた北斗七星の影絵に、きみ
が、蛇口から降り注ぐ、愛とか哀しみとかの
透明な水と砂まじりの海水とを注いでくれた 

(そっと
置いていかれる
裸子植物の
小さな種子

歩くことと息を継ぐことを
同じ
低さの営みとする
その習俗に触れ

もうずっとぼくらは下手になってしまった

           うっすらくぐもった
              視界の内奥に
             とどまっている
               ひらかない
               風色の草原

(むきだしの生、半裸の棕櫚

             遺体の整列した
      安置(/息)のための体育館で 
      いつまでも鉛筆を削りつづける 
              百草のような
             ぼくときみとの
         おわらない会議が開かれ
              そこにも、風

                 たとえ    
                  /ば
          柔らかい夕刻の腐臭や
           オールドバザールで
             少年たちの齧る
            フルーツトマトは
           風たちの色に乗って
          やってくるということ
                 それを
           信じてきたのだから

「どうか恐れずに」
 
                風たちの
                吹いた、
             たしかに吹いて
            いるの、であった

文学極道

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