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作品 - 20080725_538_2916p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


おこのみで

  裏っかえし


ゆりかごは無人で、白い錠剤に埋めつくされてる。あたしは肺を病んで、背中は苔むして
る。そこをロバが通ることもある。すると、シャッターチャンスだって、連中はいっせい
にカメラを構えるから、あたしは満面の笑顔、林檎みたいなピースサインを送る。ドラッ
グストアは眩しくてとてもきれい。夏休みの3分の2を費やしてもいいって思うくらい。
だってここでこそあたしたちのけんぜんなたましいは育まれるんだから。部屋のすみっこ
でドラッグストアの紙袋をひっくりかえす。とっさに数が知れるほどの錠剤と、さんまの
蒲焼の缶詰がころがり落ちる。ねえ、知ってる。ロバって場所によっては「性的放縦」っ
て意味になるんだって。それって、ドラッグストアには売ってないよね。あそこで売って
るものじゃないと、もう追いつける気がしないし、だいいちあたしらって何を追ってるの
かよく分かんないし。あたしは、それでもいいと思ってる。肺病みの身には、この部屋の
空気は澄みすぎてるし、そうじゃなければ、残りの3分の1でやっていける気がしないし。
苔むしたあたしの背中を、さっきのロバが尻をふりながら歩いてく。連中ったら、オペ用
の極薄てぶくろを頭にかぶって、象徴的に踊りはじめてる。あたしったら、さんまの蒲焼
の缶詰を、ひどく乱暴にしたい気持ちになる。だから、まず、ゆりかごで眠りたい。もち
ろん錠剤はどけるし、夏休みの終わりには連中を、一粒残らず、やっつけるつもりでいる。

文学極道

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