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作品 - 20080714_374_2899p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


草花の目

  殿岡秀秋

秋の庭の草花たちは
人が寝静まると話しだす
その声は虫の合唱にのみこまれて
部屋の中ではよく聞きとれない

夜中に目覚めて母を揺する
行っておいでと眼を瞑ったまま母がいう
ぼくは温かい布団から立ち上がり
障子をあける

月光を反射する草花の目がいっせいにぼくを見る
突然の侵入者に驚いたのか
人の様子をうかがう野良猫のように
目だけを光らせている

黄色い花の奥や
葉の中央の窪みに
その目はある
日光の下では閉じて月影に開く

縁側の狭い廊下を歩くぼくを
日に向かうひまわりのように
追ってくる目
ぼくは視線を背中に感じて振り返る

うずくまっている集団が
今にも立ち上がりそうな気配
虫の合唱が
一オクターブ高くなる

ぼくは廊下を走って
便所の戸をあけて
急いで用をたして
戻るためにおそるおそる進む

草花たちは目を細めて
そ知らぬ顔をしている
来たときは吼えて
帰りは無視する番犬みたいに

障子を閉めると
噎せ返るように熱い母の胸に手を置く
目を瞑ったまま母は
ぼくを抱き寄せる

障子の外で草花たちのひそかに笑う声

文学極道

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