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作品 - 20080711_294_2890p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


八十八夜語り

  吉井


     ー首夏ー

 八夜
  古びた民家の窓枠に鴉がしがみついていて 網戸を掻きこする嘴が 深紅に
  染まっていた 跨線橋の欄干の四隅にぶら下がっている無国籍の照る照る坊
  主が 踏切りを渡るまいと遠回りして帰る私の進路を 夜露の滲む風の脈動
  に合わせてトリミングしている

 九夜
  剪定した珊瑚樹の隙間からつくつく帽子が遊びに来だした 電源を切った液
  晶の画面に映る生成りのレースのカーテン つげの枝に絡んだビードロの風
  鈴が 踊り 無名童子の笑い声が発熱しては冷めて行く テトラパックの珈
  琲牛乳を転がし 私は昨日に向かって走った

 十夜
  白蟻に齧られた隣りの猫が くずれた後ろ脚で愛撫をしながら うちのうみ
  ゃー子に求愛している 軒下に干した木べらがカタカタ鳴って 地震と心中
  しながら今年の夏が訪れようとしている 簡易ベットに接した壁を 二匹の
  子蜘蛛が素早く平行に下りてくる


     ー梅雨ー

 十一夜
  二日前に買ってきた食パンに黴が生えている とうとう今年も山桃の実がな
  らなかった 鼻をかむと 沢山の子蜘蛛が人中に出てきてうっとうしい 首
  を斜め45度に傾げた障害者作業所の連中は 玉がところどころ抜けた数珠
  のように繋がって アルミ缶を回収している

  
  

文学極道

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