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作品 - 20080704_118_2874p

  • [優]   - 桃弾  (2008-07)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


  桃弾


雨の降りようゆうべには
いつも
目をあけてぱくぱくと息をとめてみます

あなたに
わたしに
バスを待つひとに
まっすぐに同じだけ降る雨がゆるやかに模ってゆく
傘をもたないわたしのあいまいな輪郭
そして波紋

とけてしまえたらいいのに、ね

息の白いお嬢さんがゆきちがいます
むこうにはゆらゆらと漂う魚がいるばかりで
しあわせな彼女の語尾も傘の下きらきらと とけてゆくことです

わたしは歩く
足裏にまとわりつくアスファルト
じゃりじゃりと重く
こころもとなく
背中につたわる雨つぶはぬるく
ますますのあいまいなわたしの輪郭だけつれて

ほら
見あげたらのぼってゆけるかもしれない
ゆきつくさきの雨ぐも
わたしがいつか海になったら
そしたら
そうしたらぜんぶ昔のはなし

それまでは濡れる

雨が降りようです
わたしたちを
明滅をはじめたネオンを
やわらかに萌えるくちなしを
まっすぐにびょうどうにぼやかしてゆきます

電線からしたたり
灰碧にしずむ街にゆきかう車は波の音でささやき
ビルの下とりどりにひらかれる傘は水母にすがたをかえて
わたしはまた
ぱくぱくと息をとめてみるのです

文学極道

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