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作品 - 20080702_097_2869p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


月影の出口

  殿岡秀秋

家と家とがひそひそ話しができるくらいに
寄り添って並ぶ街
三十年を経てぼくは生まれた家がある小道に立つ
すでに他人の家である

家の前の袋小路は
老いた母の背中のように萎んでいる

その昔
袋小路の草や水溜りは
月の光に輝いた
そこが宇宙から見つけられるように
ぼくは蝋石で塗りつくそうとおもった
青白い反射光が
星明かりのように月に伸びていくだろう

虫たちの音楽に誘われて
玄関から覗く
月影の袋小路は
世界への出口だった

竹馬をしたり
石蹴りをしたりしたそこは
今はコンクリートで固められ
大人の足で二歩も歩けば
隣の塀に突きあたる

雪の翌朝
りんごの眼
バナナの鼻
炭の眉をした雪だるまを父が作った

相撲取りのように大きな雪だるまは
父が置いていった長靴を履いて
歩きだすのではないかとおもった

暗くなって
袋小路を出ていく雪だるまの背は
街灯の下で青白く光り
月にまで光の筋が昇っていく
その後ろ姿を追っていった
子どものぼくは
どこへ行ってしまったのだろう

文学極道

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