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作品 - 20080619_854_2846p

  • [優]  風の音 - 草野大悟  (2008-06)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


風の音

  草野大悟

輝きは
ダンナが浮気したとかで
離婚じゃ、離婚じゃ
と、涙して
眸を引き連れ
海から跳びだしてくるし

光は
負けず嫌いが高じて
頭に
記憶の塊をため込むし

夢は
生徒の獲得と
焼酎のコレクションと
光の見舞いに
跳び回って
入れ墨背負ってるし

今年の暮れは
みんな
なかなかに忙しく

おれは
おちおち
病気にもなれない

から


潮の匂いのする河口で
きみが釣り上げた秋は
キラキラと
ヴァーミリオンの鱗を煌めかせ

すっぽりと
きみの心に還っていった


ぼくはといえば
あいかわらず
仕掛けを
空にたらし
風を釣ろうとするのだけれど
いつものように
あたりひとつない現実に
妙に満足している

日焼けした
ふたりの竿の先に
赤トンボが一匹ずつ
とまっている
夕まずめ
遠くで
風の音がする


だから
ぼくがひざをいためたら
すかさず
ひだりひざをいためてみせる

ぼくが
あたまに
未破裂動脈瘤をつくったら
すぐに
6センチの髄膜腫を
つくってみせる

きみの負けん気の強さは
中学2年のころと
すこしも変わらない

雲たちが
あきれはてている

温泉で
ぽかぽかにあたたまって
負けず嫌いが
すやすや
ねむっている

あした
入院する
負けず嫌いが
ほんのり
ねむっている


<<青い鳥の羽を>>

あしたは
きみが入院する日だから
ぼくは
青い鳥の羽を洗おう

すこしばかり疲れた
青い鳥の羽を
洗おう

ざぶざぶ
ざぶざぶ
なんども
なんども
洗おう

そしてそれが
小春日和の
きょうの空のように
鮮やかなブルーを
とりもどしたなら

明日
きみを
送っていこう

明るい顔して
青い鳥の
きみを乗せて

  @@@@∂∂∂


行って来るね
にっこり笑って
きみは
手術室に消えていってけれど

ぼくは
きみの笑顔が
太陽のように
また輝くものだと
信じていたけど

宇宙の闇に
飲み込まれたように
きみは
眠って
そして
眠って


眠る光


ぼくのひかりは
うでや
はなや
せいきを
いっぱいのチューブでつながれ
これでもかと
つながれ
えがおも
なみだも
ことばも
みんな
みんな
うばわれ
あたまの骨を
奪われたまま
やみのなかを
さまよっている

きこえているなら
まぶたを
うごかして

きこえているなら
ぼくのなまえ
よんで

ひかりをなくしたかげが
こごえるこころかかえながら
あしたへの炎を
もやしている

瞳を
きみが閉じたあとも
きみの携帯に
お知らせメールが届く

手術前のぞの日
ベッドのうえで
毛布から半分顔を出して
泣き出しそうに頼りなげに
きみは自分を写していた

心細かったんだ
怖かったんだ
側にいて欲しかったんだ
ほんとは
ほんとは
こんな手術なんか
受けたくなかったんだ

平成17年12月8日
きみが
闇の中に迷い込んだその日
きみの
光を取り戻す
ふたりの闘いが始まったのだ。。。。。。


☆☆☆☆☆△☆


ほんのりと
さくらいろに
咲くのです

闇をさまよい
脳をうばわれ
それでも
トクトク
トクトク
ちいさな鼓動をつづけてきた
ひまわりが

ほんのり
さくらいろに
咲くのです

 ささやき天使

爽やかな春風の中で
生まれたばかりの瞳して
きみは聞くのです

今日は何日?
今何月?
何曜日?

くっきりと
二重瞼を見開いて
きみは
ぼくを
見つめるのです

ねえ、今何時
お水飲みたい

きみの食事は
三食
チューブから
直接胃に流し込まれ
喉を通ることはないのです


ねえ
ささやくように
きみは
喋るのです

ねえ
頭かゆい

きみは
うまれたばかりの赤子のように
懸命に
言葉を紡ごうとするのです
懸命に
見舞いに来た人たちを
接待しようとするのです


ねえ
きょう
てんきいいね
うれしいな
てんきいいと
うれしいね
あめ
いやだね

ようちゃん



よいしょ
よいしょ

よいしょ
よいしょ

ちいさく
ちいさく
そよかぜが
ふく

よいしょ
よいしょ

よいしょ
よいしょ

かぜが
ささやいている

手を握り
うたた寝していた
ぼくが
目を開けると
きみは
かろうじて
動くようになった右足で
足元のシーツを
引き寄せようとしている

よいしょ
よいしょ

よいしょ
よいしょ

真剣な顔して
引き寄せようとしている

よいしょ
よいしょ
よいしょ
よいしょ

あの日から突然
どこかに行ってしまった自分を
呼び戻す」かのように

よいしょ
よいしょ

よいしょ
よいしょ

ちいさな
ちいさな
かぜが
ふく

泪のなかに
かぜがふく



!!!!!!!んがが





風の音がする
夜明けが近い

文学極道

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