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作品 - 20080616_793_2834p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


二百十日の祭

  殿岡秀秋

天井が黒くしめり
水がしみでて
凸面ガラスのように膨れる
水の中を泳ぎまわる妖精が
透明な壁に穴をあけると
眼薬のように
ぼくの顔に落下してくる

畳を這ってくる音

顔を青白くした母が
バケツを置く
単調な金属音の
テンポが速くなっていく

子どもたちは
天井に描かれる地図の変化で
どこから新しい妖精が
顔をのぞかせるか
指さして
当てようとする

板と板との境目に現れた
玉がはじけて
柔らかな飴が落ちてくる
母は走っていって鍋で受ける
はじける音

天井に黒雲が広がり
部屋が滝になる
薬缶
牛乳瓶
コップ
お碗が
打楽器の演奏をする

器からあふれそうな雨水を
台所の流しに捨てにいくのさえ
ぼくの遊びだ

母が座布団にビニールをかぶせ
こどもたちを
濡れていない島に集める

酔っ払いのように家の戸を叩いていた
風がいなくなる
ぼくは雨戸をおそるおそる開ける
扉があくのを待っていたのは
日の光だった

街は川になっていて
ボートを引いて歩く人がいる
街路樹は
身をかがめて髪を洗う
庭は紅茶色のプール
海水パンツに着替えて
飛びこもうとするぼくを
母が抱きとめる

文学極道

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