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作品 - 20080614_769_2830p

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ママとパパのこと

  ミドリ




カウンターにはママがモデルだったころの写真が額縁に入っている。白色の照明灯の下で、妖精のように笑っているママ。

ママがパパにプロポーズを受けたのは烏丸御池の駅の入り口の傍だって。
階段の前でお別れしないといけないんだ。
パパはママと離れたくなかったのよ。ママは鴨川を見つめながら言った。
でもママはパパだけじゃなかったとも付け加えた。
パパは写真家だから、ずっとママの傍にいるわけにはいかなかったの。

ママはどこにいるか知れない人のことを思い、心を痛めるのが嫌なの。
そういう女って、どんどん下品な顔つきになってくものだから。
ママはパパに三つの約束を守るように言ったの。
写真家を止めること。私たちを孤独にしないこと。それから三つ目は、子供の私にはまだわからないよと言って笑った。ママのいじわる!

松原通りの角でパパの車を待った。パパはコンビニでタバコをワンカートン購入し、ママの機嫌を損ねた。男のひとが女のひとの機嫌を損ねて、オロオロする姿ってかわいいと思う。
ママにそう言うと、そこに愛が存在するうちはねと言って、きゅっと片目を瞑った。
ママは時々、哲学者になる。

パパはママをエスコートしている時が一番楽しそうだ。
まるでママのしたいことをみんな知っているみたいなスマートな身のこなし。リビングでパンツ一枚になってテレビを観ている時とは大違いだ。
車の運転はいつもパパがする。
ママは助手席で憂鬱そうに頬杖をつき、時々パパが口にするジョークに笑う。

ママが私を産んだ日の夜。パパはずっとママの手を握っていたんだって。そしてパパはママにありがとうって言ったんだ。それはママがパパにもらった、永遠を誓う約束なのよ。そう言ってママは私のおでこにたくさんのキスをくれた。
パパがママに誓った三つ目の約束の意味がその夜私にははっきりわかった気がしたの。

だから私はパパに言ったの。我が儘なママのことを宜しくねって。パパは少し顔を歪め、ママは我が儘なんかじゃないよと言って、私をぎゅっと強く抱きしめた。
タバコの匂い、男のひとの哀しみに少し触った気がしたその日の夜。私は、ママより少し早めに、眠りについたの。

文学極道

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