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作品 - 20080603_533_2806p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


アフリカの匂いがする

  ミドリ



フランスというのはダチョウの名だ
ダチョウは車のサイドミラーの角度を直すと
振り向いてぼくにこう言った
慣れたか?
えっ?!
この土地に慣れたかって訊いてんだよ
車のキーをまわすと彼はマクドのドライブスルーで買った
フィレオフィッシュバーガーにかぶりついた そして
コーヒーを一気に飲み干すとダチョウは アクセルを踏み込んだ
車は穏やかに加速していった 9号線

この時間はまだすいている方だよ
信号で止まると彼は振り向いて言った
しきりにフライドポテトの塩のついた指先を舐めている
鴨川が陽の光を浴びて反射している
彼はサングラスを掛けた
どこに向かってる?
ぼくが座席を乗り出して訊くと
ダチョウはこともなげに言った 俺んちだよ
車はあきらかに 動物園の方へ向かっている

通学鞄を背負っている子供の傍を通り過ぎた
結婚しているのかい?
何?
結婚しているのかい?
野暮なこと訊くなよ 嫁さんと子供は故郷に残してきた
出稼ぎだよ 俺が京都に来たのもつい2年くらい前さ
日本語がうまいな
大学で勉強したからな
ちょっとガソスタ寄ってくよ
彼はシビックのハンドルを切った
ダチョウは給油口の位置を間違えて 車を二度ほど切りかえした

やれやれだな
彼はレギュラー満タンっと ロン毛のアンちゃんに言うと
カードを手渡した

ケータイが鳴るとダチョウは聞いたことのない外国語で
ぺちゃくちゃとしゃべった

受話器の向こう側で年増の女の声がした
きっとそれは長距離に違いない
ダチョウの逞しい首筋から
ポロシャツの襟首からポロリと 

アフリカの匂いが ツンとした

文学極道

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