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作品 - 20080530_416_2798p

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あたしたちの循環

  宮下倉庫



循環
って名前の
バスに揺られてるとあたし
血液みたいね
最後部の座席に座って
そんなこと考えてる

ねえ
向こうで震えてるの
あれって地平線?
いや あれは鼓膜が
感受しているのさ
じゃああたしたちの
耳の奥で震えている
これは
なんなの?
さあ
案外 ぼくたちそのもの
かもしれないね

前の方に並んで座ってる
あたしみたいなコと
頭の悪そうな男の
ねぶたい会話が聞こえてくるから
あたしは窓の外を眺めることにする
薄くオレンジ色がかった風景の中
手の届きそうなとこに建つ
まったんのしせつが鉄くずとか
やっつけてる

地平線のそばでは
キリコの描いたマネキンが
じょうろで水をまいてる
なにを植えたのか分からないけど
風景にとても溶け込んでる
そんな気がする
こっちを見ているのかしら
それも分からないけど
こっちに向かって 今
手を突き上げたみたい
そして地平線の向こうがわに
マネキンは歩き去っていったわ

なんで
あたしこいつと
こんなねぶたい会話してるんだろ
もうこんなんだったらどこか適当な
ど郊外にでも
誰かあたしを埋めて
水をあげてくれないかしら
地平線が見えなければなおいい

窓の外を見ていたはずが
いつのまにか
そんなこと考えてて
あちらを見ているあたしみたいなコは
こちらを見ているあたしみたいなコで
あたしの隣では頭の悪そうな男が
感受してる
でも 案外それが
あたしたちそのもの
かもしれないとか
思ったりしない?

ど郊外のバス停であたしは降りる
入れ代わりにあたしみたいなコと
頭の悪そうな男がバスに乗り込んで
いちばんうしろの席に座るのが見える
あたし 手をぐっと握って
遠ざかるバスに向かって突き上げる
なぜって
他にふさわしいみおくり方を
思いつかないから

握りしめた手がちくりと痛む
ひろげて見るとそれは
溶けて ねじ切れて
冷えて固まったみたいな
鉄くず
マネキンみたいにのっぺらぼうな
手のひらから血液が流れ落ちたわ
なんだかあたしたちって
循環しつづけてるみたいね
それで
地平線の向こうがわに
スキップして あたし
帰る
 

文学極道

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