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作品 - 20080520_097_2774p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


夜を歩く

  ともの

夜の道を、ゆく。
季節を愛おしむわけではない。
散歩のための、散歩だ。
ほの白い街灯を頼りに、ただ進む。
あたりに自分の歩みを散らしてゆく、散歩だ。
道の真ん中に、拳がひとつ落ちていた。
蛙だ。
怯えて、奴をそっと避けながら、ゆく道だ。

夜を、歩いた。
生まれ育った街ではなくとも、何年か暮らした街を。
そこかしこに、小さな地雷が埋まっている。
除去されていないことを、また確かめる。
ずれた靴下を、直しながら見上げたそこは、
覚えがある場所だ。
いたたまれず、逃げながらも振り返る。
逃げながら、小学校をのぞく。
誰もいない校庭が見えて、
銀杏の葉っぱの揺れる音に、
追い立てられる。
早歩きで、懸命に、逃れる。

月のない夜だ。
星も見えない街の中、電気の明りが空に反射する。
漆黒ではない、濃紺の空が、わたしの夜だ。
時折人とすれ違い、この世界の存在を知る。
朝も昼も、おおよそ社会でいきている自分は、
胡麻粒だ。
けれども、いまここにある自分は、胡麻粒ではない。
何かは未だ知らないが、
たしかなことは、
胡麻粒ではない、何かであると、いうことだ。

ジョキングのおじさんに追い越され、
ウォーキングのおばさんとすれ違い、
教会の前で懺悔をし、お稲荷様に手を合わせ、
神社の鈴を鳴らし、お寺の石段を登る。
よそ様の表札を一軒ずつ読む。
右足、左足、右足、左足。
進み、戻り、進み、戻る。
蛙がまだ、さっきの場所にいる。
濃紺の空の下、胡麻粒ではない自分を、
この夜の世界に位置づける。
散歩することで、位置づけてみる。
夜を歩きながら。

文学極道

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