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作品 - 20080505_735_2737p

  • [佳]  砂浜で - まーろっく  (2008-05)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


砂浜で

  まーろっく


波はゆれる境界線
風は不確かな時間

長い黒髪が
なびいていた記憶の
温度だけを俺は感じる

誰かの名前を
黄昏に呼んでいた
声だけを俺は感じる

俺は枯れきった頭骸骨だから
俺には時間が無い
何年波が俺を濡らし
何年風が俺を吹きぬけたか
俺は知らない

俺は電球のように薄っぺらくなった
俺が光を通す すると
俺の抱いているこの小さな空間は
光でいっぱいになるのだ
廃れた教会のように
暗がりでミサをすることは永久にないのだ

やあ しおまねき君
この世でいちばん暗い精神があった場所も
今や君の遊び場だ
俺には君が大事に守っている
わずかばかりの暗黒も無いのだ

あの暗鬱な脳はそこで
眼窩から用心深く
外を眺めていたものだ
あいつは自分が消滅したら
世界が消滅すると信じていたが

精神が無くても
時間が無くても
俺は物質としてあり続けるのさ
世界も物質としてあり続けるのさ

あそこにある
流木が流木であるようなあり方で
空き缶が空き缶であるようなあり方で
俺は物質として輪郭の喜びにひたっているのだ

悲しむだけの精神が
置き去りにするだけの時間が
滅んだというだけじゃないか

笑うかね?しおまねき君
その小さな暗黒のなかで
この砂浜に迷い込んだ唯一の生き物よ
ひとり永久に生き続ける者よ

あの海岸道路で命が運ばれてくることは無い
それはわかりきったことなのだ
あの国道は封鎖されている
つまらん死と生の境界で
だからここではずっと真昼が続くのだ

−その時
波が頭骸骨をのみこんだ
波がひくと砕けた頭骸骨から
しおまねきが這い出た
風がレジ袋を吹き上げた

それは高く揚がった
頭骸骨も流木も空き缶も
みるみる小さくなった
海は膨らみ水平線は遠ざかった
かさかさ音をたてて揚がっていった
遠くの、白く乾ききった住宅街を
真新しいきみの自転車が走っていった

文学極道

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