墓は遠い
それは栃木のへその辺りにあり
そこには誰もいない
現在地のような顔つきで
祖母は循環を続けている
あ 地震
昂ぶれば昂ぶるほど
地震嫌いの妻のもとに
駆けつけなければならない
なにぶん墓は遠く
生きている者は傲慢だ
暑い日だった
木立の階段を登りながら
前後左右でみな押し黙っている
やがて蝉の声ばかりになり
今墓を目の前にして立つ
向こうで石工は新しい名を刻んでいる
ここには誰もいない
そこかしこに散在している
こめかみをちょっと押してみる
まったく暑い日だった
石工も汗びっしょりになり
やがて冷たい水となって流れていく
お参りの最中に地震あった?
どうだろう
揺れていたのは
僕たちだったのかもしれない
東京では微弱な震度が観測され続けている
呼び名について考えている
堆積する祖母の傍らで 孫は浚われていく
血の名付けというのはあやふやで
黴臭い幻想なのかもしれない
この部屋は祖母の部屋だった
今は子孫たちに埋め尽くされ
焼けて黄ばんだ畳の上には
半分だけの煎餅
少し湿気たそれを齧る
見送られるのは好きじゃなかった
なにひとつ引き受けずに南下を開始すると
誰かが新しい名で僕を呼ぶ
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作品 - 20080426_499_2718p
- [優] サイクル祖母 - 宮下倉庫 (2008-04)
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