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作品 - 20080412_238_2696p

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海とカンガルー

  ミドリ

擦り切れた絨毯の上に、一匹の黒猫がいた。
カンガルーはホテルの風呂に浸かり、ドアノブの隙間から、
客室係に厳しく朝食の注文をつけている。

朝、ベットに入ったまま、カンガルーはかつて栄えたこの海岸沿いの、
リゾート地のことを考えていた。
タオル地のガウンにくるまり、部屋の電灯の下でクロワッサンを頬張る。
テーブルの上の、市街地図に目をやると、カンガルーは持っていたコーヒーを
思わず零してしまった。

窓ガラスの隙間から潮騒が入り、匂いが、鼻腔をついた。
彼がこの日エージェントと会うのは午前の11時だ。
腕時計に目をやる。
黒猫がカンガルーの膝の上に飛び上がる。

電話がなった。

「あたしだけど!」

女の声だ。

「なんだ!」

カンガルーは答えた。

「あんた今どこにいるのよ!」

ノックもせずに、客室係が入ってくる。
「小エビのポタージュでございます」

カンガルーは眉間に皺を寄せ、女にこう言った。

「海さぼくと君の海さ、胸の中に、ちゃんと居るよ」

文学極道

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