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作品 - 20080404_131_2687p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


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  香瀬


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   on
    女はパソコンの前に座っている、パソコンには文字列が書かれているが意味がわか
   らない、どこにも届かない文字が配信されている、光の粒となって配信された文字列
   は女のイメージを灯すことはない、部屋はパソコンの明かりにだけ照らされて女の顔
   だけが浮かび上がっていた、左手で缶チューハイをあおる、女の影だけが少し濃く見
   える真っ暗な部屋です、クリック、
                   真っ暗な部屋で一人晩酌をしている女が主人公の
   小説を半分まで読んで、女は乗り換えのため電車を降りた、次に乗るためのホームは
   陸橋を渡らなければならず女は本をたたみ小脇に抱え人波に泥みながら流れた、光の
   流れが見えるように駅は埃が立ち込めており、ブラウン運動? そんな理科の用語も
   思い出したりしながら、この陸橋を渡る黒い頭のひとつひとつが微動しているようだ
   ろう、と階段を下る女とすれ違った、
                    女は女子高生の格好をしており、戦闘服である
   セーラー服を着こなしている女子高生であること自覚していた、最新のヒット曲はま
   ったくわからないけれど、ひとつひとつの音の流れが鼓膜に届いてくるのは感じてい
   た、「切り取ってよ一瞬の光を!」、切り取られた女は黒い粒粒した波に同化してい
   く、そんなのに似た女がいくつも束になって突き刺さってくるような気分さ、ヘッド
   フォンは汗ばんできている、
                女の鼻腔をくすぐるのはなんだろうか、駅から出られな
   い女の夢を見ていたような気がする、電車の中で目覚めるとそれだけ思い出した、鼻
   先を掠める匂いはまるで女子高生の耳から流れる汗のようで、噎せるようだよ、鼻粘
   膜の湿り気はセーラー服を着ていて、きっと耳たぶにはシルバー925のトカゲのピアス
   があるはずです、トカゲは夢の中で歩き出し女のほうに近づいてきた、女は電車に揺
   られている、女の耳飾が少し動いた、
                    食べられたい/食べさせられたい、女の唇の上
   で誰のかわからない液体が光っている、銀色に光って、銀色の小動物が漏らしたおし
   っこのように光っている、女は舌を伸ばし、舐めた、しょっぱい、舐められた女はト
   カゲに舐められたのではないかと錯覚するほど気持ち悪く感じていた、全身が鳥肌立
   つぜ、おしっこをしたあとのように身震いしている、本当は気持ちいいのかもしれな
   い、しょっぱい、って股の下から言われた気がした、
                           爬虫類に犯されている女の気分
   で夜が明けると、ベッドの横で眠っていたはずなのに誰かの上で腰を振っていた/振
   らされていた/ていたかった、壁を這うように密着した接合部が泡立つ、小ぶりな胸
   の先端をつねられる、いたい? 冷血動物の体温で愛撫されている、
                                  自ら跨って腰を
   振っています、という演技をしているビデオを見ていた、ビデオの女は大して興味も
   なさそうな顔をしてタバコに火をつけた、上の口でも何かを咥えずにはいられないの
   だろう、なんだそれ? いたいよ! 無理矢理つっこまれたことに憤慨した女はタバ
   コをもみ消しシャワーも浴びずに着替えて部屋を出て行った、女に出て行かれた部屋
   は暗く、一部だけより黒い影が壁に映っていて、一瞬だけ女だった、
                                  失敗したセック
   スの後のような顔の女が店に入った、キャラメルマキアート、出てきたコーヒーはブ
   ラックで、一気に飲み干した、今日のコーヒー、しょっぱい? 胃袋が灰色になりそ
   う、頬が湿っているのは湯気のせいだよ、、という形の煙が換気扇に吸い込まれるの
   を見届ける、灰皿には三本の吸殻があり口紅の跡が目立って見えた、赤い唇の跡は血
   のように赤い、女の首筋に同じ唇の跡があった、気がする、
                              乱暴に吸われ、吸い口に
   血がついていそうなタバコの煙の匂いがする汗、女子高生はヘッドフォンのボリュー
   ムを上げ汗の量を増した、電車の中の戦闘服はどれもこれも揺れている、パンストの
   付け根は少し湿っていて乗客は清楚です、座っている女も吊り革を掴んでいる女も何
   かを咥えているから、どこから出てきたのかわからないような液体の匂いがして、禁
   煙席のほうまで春の匂いを届けそう、
                    銀色のトカゲが揺れているのは、どの席も揺れ
   ているからです、耳を穿とうとする空気が灰にまみれていようが、どうせ消えてしま
   う、諦観した鼓膜が呟く声も聞こえてきそうさ、「写真になれば古くならん?」、新
   しいって何のことかもわからないくせに、すぐに音を拾おうとする女のような真似は
   やめる/めろ/めて下さい、その耳たぶを下さい、
                          いくつもの女が音とか匂いとか味
   とかで流れていく消えていく満員電車女子高生蜥蜴腰振珈琲煙草、そんな光景を見せ
   られている女だった、光景は消える圧縮、本を閉じる、on/offの「/」みたいな栞 は
   失くしたところだから、栞の代わりに女が挟まった、送電線笑う、パンタグラフが上
   下するのと同じ速さで視線を動かす、動かした先に何が見えるの? その「?」に追
   いついたところでまた離される女、クリック、
                        クリック、ページを下にずらしながら
   女は缶チューハイを飲みなおす、無味無臭、透明な液体を音もなく飲む、そろそろク
   ライマックスじゃないかしらん、パソコンの前でそう思った、意味のない文字列を目
   で追っていくよりも早く退屈している、書き終えて書き終わった文字を目で追う、追
   われる女の空き缶は消え持っていた左手も消えて女は主電源を強く長く押しながら消
   えた、「ここ」まで女を読んできた___((も消えそうで、)どのパソ コ  ン
   の  前  か ら   も     k i   e    t    .   、
                                        off

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