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作品 - 20080201_016_2587p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


地上に眠る恋人たちの夢は

  ミドリ

車は夜道を飛ばしていた

明かりの点いたホテルの 初夏の夜のプールサイドに
まばらな人影があり
彼女が視線を窓に移すと
男に言った

彼が事故に遭ったのはここよって
ひっつめたロングヘアーと細い体はまるでバレリーナだ
”彼”って誰だい?
男がそう聞き返すと 彼女は肩をすくめた

仕立てのいいスーツに 撫で付けた髪の男の名は ハジメ
今の彼女の
つまりまなみの恋人だ

まなみがベニグノの教会で結婚式を挙げたのは3年前
”彼”ってのは
まなみの前夫だ

     ∞

まなみの前夫とは会っていた
ぼくはメーカーの人間で 彼はうち代理店で働いていた
ぼくらは
3ヶ月に一回の
会議のあるときに顔を合わせていた

ひょっとしたら2次会で どこかのスナックで
あるいは どこかの料亭で
グラスの一つくらい 合わせていたかもしれない
こんなとき
ぼくの記憶は あまり当てにはならない

     ∞

車ん中で ぼくがタバコを取り出すと
彼女は横で咳き込んだ
”彼”はタバコを吸わなかったって言う
うん
でも俺は吸うんだよ
身体に悪いのに?
まなみは眉間に皺を寄せている
ぼくはスーツのポケットにタバコ仕舞った

     ∞

まなみは時々 ノートとペンを持って
机に向かっている
何をしてるんだい?って
肩越しに覗くと
見ないでって ノートを伏せる
決まってその時 シャープペンシルのパチンっと 弾ける音がする

とにかく変わった女だ
例えばセックスの最中
闘牛の話をはじめる
スペインのか?
石垣島のよ
俺も見たことあるけど・・・
コーフンものなの!
うん わかるんだけどさ

     ∞

昨日はバスルームで
鋭い呼び出し音が3度鳴った
まなみの携帯電話だ
ベルは3度鳴った
でも会話は聞こえない

心配になって覗きに行くと
まなみはバスタブの中ですやすやと眠っていて
彼女の膝の中で 携帯電話が
ゆっくりと沈み込んでいくのが見え
ボイスメール・メッセージが ディスプレイに表示されていた

まるでそれは
彼女の世界の中にあって 入り口と出口とが
あべこべになっているようだった

     ∞

その日はいつもように
彼女は週末の仕事に出かけた
音楽を聴いているぼくのイヤホンをむしり取り
行ってきます!
なんて
耳元で大きな声を張り上げる
何を聴いてるかとおもいきや なんだ!? ツェッペリン?
まぁね
終わってるわね・・・
何がやねんっ!

そうよ
あなたのそういうとこ
私 結構好きよ

ロングのひっつめた髪をほどいて
まなみは唇を寄せてきた
ぼくはそっと抱き寄せた彼女の肩越しに見えた
脱ぎっぱなしになっているまなみの
ジャージを 片付けなきゃ 
なんて
その時ぼんやりと 思ってた

文学極道

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