[シウマツ]
日曜日
道を一人で歩いていた
公園へ行こうと思った
向こうからやってくる男性はお年寄りだ
桜の樹の下ですれ違う
「
まだ咲きませんね
」
と言うと
「
その科白は彼女のですよ
」
と言われた
おじいさんの指差す先を見るため振り返るとリクルートスーツを着た女性がツカツカと近づいてきた
少し顔が怒っている
桜の樹の下まで来ると
「
まだ咲きませんね
」
と強い口調で言った
追い越される瞬間に耳元で
「
なんでその程度のこともできないの?
」
と言われた
いつもそうだ
彼女は足早に桜の樹の下から遠ざかる
もうすぐ公園に着くだろう
タイトなスカートに包まれている尻が左右に動きながら小さくなっていった
黙って様子を見ていた老人も
「
けふは死ぬにはいい日だ
」
そんな科白を言いそうになっていた
(そんな科白はないにもかかわらず だ)
公園へ行こうと桜の樹の下から離れ
桜の樹の下には誰もいない道を一人で歩いていたのにいつの間にか犬や猫がいた
赤と黒のランドセルもいた
それ以外の色もいた
児童たちはお揃いの安全帽子を好きな色に塗りなおし
「
わん
」
とか
「
にゃー
」
とか
「
あいつ科白もまともにいえないんだぜ
」
とか
「
だっさーい
」
とか言っている
きっとそれらは科白どおりなのだろう
言われたままでは肩身が狭いので笛を吹くように指示を出した
子供たちは口々にリコーダーを咥え
「
わん
」
とか
「
にゃー
」
とか
「
死ぬにはいい日だ
」
とか科白を鳴らしている
誰かが押さえる穴を間違えて
「
その程度のこともできないの?
」
と鳴らしたりもした
間違いさえあらかじめ与えられた科白に沿ったものだ
犬も猫もまるで就活でイライラした女のような声で
「
まだ咲きませんね(笑)
」
と言う
嬉しそうに言う
口々に語られる科白は次第に速度を増していく
いろいろな色のランドセルや犬や猫に早口で何か言われる
聞き取れない
指の動きが早すぎるのでリコーダーは
「
けふは死ぬにはいい日だ
」
と言う
聞こえない
向こうから男性がやってくる
スーツを着た女性かもしれない
公園からの帰りだろう
どちらにしてももうすぐ春だ
いつまでたっても公園にはたどり着けそうにない桜の樹の下で科白を言わされる
「
まだ咲きませんね
」
「
もう散りましたよ?
」
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作品 - 20080128_923_2574p
- [佳] [シウマツ] - 香瀬 (2008-01)
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香瀬