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作品 - 20080125_877_2571p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


悲しみの小石

  殿岡秀秋

ベッドに横たわるきみに
背中を向けたぼくの
胸に小さい石が固まる

きみのささいな否定形の言葉を
核にした小石が
痛みだす

ぼくは膝をかかえて眼をつむる
きみは溜め息を
ぼくのうなじに吹きつける
そこだけ皮膚が砂利になる
きみは子どもをあやすように
硬くなったぼくの肩をたたく

きみの思惑を超えて
言葉の礫が
ぼくの胸に当たった
それはきみの罪ではない
塗りたての土壁のように
ぼくの胸がめりこみやすいだけだ

きみの問いかけに
いや何も
といって
あとの言葉は
胸の庭で岩になる
そこは小宇宙である
水はないのに
透明な流れがあって
岩と岩との間を
清めていく
そこにきみの沈黙も
岩となって横たわる

ぼくは眼をあける
天井に小粒の白色電灯の星が並ぶ
ひとつ青白く光るのがぼく
離れて赤く光るのがきみ
天の川に隔てられているように見えて
庭の石のように近い
透明な気が流れれば
ふれあうことができる

  母の愛に飢えて
  得られなかったときに
  ひび割れてできた胸の隙間に
  きみの言葉が落ちてしまった
  もともとその空洞を埋めて
  しなやかな胸になるために
  きみといるのではないか
  
ぼくは思いなおして向きなおる
きみはやわらかな掌で
小石を溶かそうとする

文学極道

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