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作品 - 20080119_761_2557p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


声の洪水

  殿岡秀秋

眼にも口にも扉があるのに
無防備な洞穴の耳

突然侵入し
外耳道を滑り
鼓膜に音の波が当たる

増幅された振動に
あわてて中耳の骨が収縮しても
洞窟の柱の間をすりぬける

内耳の迷宮を
音速の波は
渦を巻きながらくぐりぬけ
出口で脳の底に激突する
脳は衝撃の半分をはね返す
反動で
大波は胸を急降下して
鳩尾あたりでバウンドする

大声が
奔流となって
洞穴の耳をくだり
胸から全身にひろがる
までの一瞬

ぼくは身動きできないで
打たれた金属管のように
鳴りながら震えている

半世紀も前に
父が母を怒鳴った
家が震え
ぼくら子どもは身を硬くして
波の静まるのを待った

耳の洞穴を修復しながら
くねる壁に残された傷跡に
声の洪水の歴史を発見する

文学極道

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