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作品 - 20080117_707_2552p

  • [佳]  マリア - まーろっく  (2008-01)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


マリア

  まーろっく

マリアよ
もうあの色街のにぎわいはない
薄汚れた壁紙に映っている裸の影
カタコトのままのお前を抱きしめる
今年もくすぶって消えてゆくだけの夏
いっそ焼き尽くすような炎に染まりたい
ハルピン
おまえが二重窓の部屋を捨ててきた街
遠い昔俺の母親が祖父母とともに逃れてきた街
見えるだろうおまえの灰青色の瞳には
いつの時代も国境を逃れていく敗れた者の列が
どこまでも続くだろうおまえの白い肌は
渇いた者がたどり着く最後の雪原として
そしてあくまで黒いおまえの髪
マリアよ
遠くで凍えている俺の足指をあたためてくれ
なにひとつ俺の手に入ったものはないというのに
おまえの乳房だけが奇跡のように白い
俺はおまえのカタコトの真実だけを信じよう
そうとも!
生きた者も
死んだ者も
平原を長い列車で運ばれてくるのだ!
ああ
汽車の窓から突き出された
おびただしい腕がいっせいに振られているね
苦い河を越えて
瓦礫の都市を抜けて走る列車よ
きっと俺はいつかそれを目にする
マリアよ
草原の一本道を荷馬車に揺られながら
屍となった俺は目にする

文学極道

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