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作品 - 20071208_087_2492p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


小さな町

  ミドリ


小さな町での暮らしは嫌いだ
この町では農場は広くなっていき
農家の人数は減ってきている
農民がいなくなれば
この町もお仕舞いだ

”新しい血をもたらす必要がある”

商工会議所でマイクを握っていた老人が
そう言っていた

    *          *         

ぼくらはコーヒーとケーキで休憩しようと
車を止めた
まなみは対面ショーケースからタルト指差し
ぼくはモンブランを注文した
カフェは畑の匂いがした
ハイウェー沿いの店の周りは一面 
畑だから
ぼくらは窓ガラスの向こうの
畑を見ながら
コーヒーを飲んだ

    *          *         

ペンキの看板の文字も風雨に晒され
ろくに読めなくなっているカフェ
この夏はとても蒸し暑かった
ロッキングチェアーに 手編みのクッション
ピンクのクマのぬいぐるみに カウンターで
ジーンズ地のつなぎを着て豆を挽くマスターは
昔は自動車の修理工だったけど
体力的に長く続けられる仕事じゃないと言って
笑った

    *          * 

ぼくらがこの小さな町に引っ越してきた夏
ジャイアンツの4番打者の一振りが
リーグ優勝を決めた
東京ドームの一塁ベースを
蹴ったところで
右手のこぶしを高々と突き上げる彼
まなみのお腹には新しい生命が宿り
小さな町は
ぼくら夫婦を
黙って迎え入れてくれている気がした

”簡単に決めないで欲しいな 引越しなんて”

そう言ったまなみの言葉が 
この先もずっとずっと
ぼくの中に
残っていくような気がした夏    

文学極道

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