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作品 - 20071127_703_2465p

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肩にふりかかる、雨が

  Canopus(角田寿星)


肩にふりかかる、雨が、
どうしてもやまないのなら
そっと傘をこわしてしまおうか
暗い昼の空、信号機がにじむ、
雨雲はつつましく北東を向いていて

シャツの背中に変な汗をいっぱいかいてる
シャツの背中に変な汗をいっぱいかいてるよ
と 言われる
水はけのわるい古びた団地が
ぼくの故郷だった

ぱらぱら、ぱらぱらと、ここちよく雨音がひびくのが良い傘の
条件である、と 父さん、いつだったかあなたは話してくれま
したね、父さん あなたのつくる傘は大きくはないけれど、ぼ
くはあなたの傘の雨音で眠りました、そして雨に濡れた冷たい
肩で目を覚ますのですよ、靴がよごれないよう気をつかいまし
た、雨はどこまでも肩にふりかかる、父さんの肩は、ぼくより
もさらに濡れて、重く冷たい両肩を岩のように振りしぼり、父
さんは、ひとつひとつ、ていねいに傘を仕上げていきます

国産の傘は売れなくなって
修理に訪れる人もみるみる減って
ぼくは団地を出て
ちいさく貧しい傘をひとりで差すことにした

     、、、雨が、、、、、肩に、、、、
     、、、、、ふりかかる、、、、、、
     、、、、、、、、、、、、、、、、
     、、、、、、、、、、、雨が、、、
     、、、、、肩に、、、、、、、、、
     、、ふり、、、、、、、、、、、、
     、、、、、、、、、かかる、、、、
     、、、、、、、、、、、、、、、、

傘、傘、傘、道行く人、傘の花が咲く、誰の肩も雨に濡れ、濡
れた肩を寄せ合う、幼な児をしっかりと抱いている、落とさな
いよう、みづいろの濁流に溺れないよう、父さん、ぼくは偉大
な傘職人ではありませんでした、ぼくの傘は、皆が濡れないよ
う、あたたかく包みこむには、多少ほころんでこわれているの
です、父さん、そんな時あなたはどうしていたのか、今になっ
て折にふれ思い出そうとします、誰の肩も雨に濡れ、誰の傘も
こわれているのか、いやむしろこわれているのは暗い昼の空で
あり、肩にしつこくふりかかる雨であり、そんなことはないよ、
と、肩を隠して諭している、ぼくが浮かべた、つくり笑い、で、
あって、

肩にふりかかる、慈愛の雨が、
どうしてもやまないので
ずっと傘を差している
雨は肩にふりかかる

文学極道

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