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作品 - 20071127_682_2463p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Save Our Balloons

  レルン

窓の外
砂漠からの強い風のせいで
体調を崩してしまった
38度5分
熱は首の後ろで
風船のように膨らんでゆくので
そのままベッドに沈み
そして
壁に追われる夢を見た


目が覚めると
女が台所でお粥をつくっている
鍋からは中性洗剤のにおいがする
女はそこに刻んだネギを入れる
ネギと金属熱がからまる音で
部屋の壁が規則的に波打っている

女はまたネギを刻み、そして入れる
寸分違わぬリズムで刻み、そして入れる
鍋がネギで溢れだすころには
ネギは牛乳パックに変わり
牛乳パックは菜箸に変わる
刻む音
入れる音
刻む音
首にからまった熱が
それらの音を都合良く変換する
モールス信号
Save Our Souls



女と出会ったのは数年前のことで
大道芸の真似ごとをしていた俺に
あなたは才能がある、と言って抱きついてきた
俺は風船で鼠をつくって渡し
長いことキスをした
それ以来俺たちは一緒にいる
何の才能なのかは二人とも知らない

女は刻むものを探している
俺は熱でぼやけている




ふと思い立って
首の風船を割ってみた
乾いた音をたててベッドが傾いた
ちょうどTVでは
初雪を告げるニュースが終わり
白い壁に
風船の残骸が貼り付いて取れない
女はついに自分の指を刻み始める
リズムは乱れない
俺は起き上がり
風船の入った箱をを棚からひっぱり出す
熱のせいで
棚を見失いそうになりながら

プラスチックの箱を開け
灰色に光る風船を握りしめてベッドに戻り
また昔のように
鼠をつくろうとするが
痛みと衰弱で息が続かず
なかなか風船は膨らまない
女の指がすり減る音を受けとめ
少しずつ
少しずつ
リズムを刻みながら
息を




モールス信号
二重奏
Save Our Souls
Save Our Souls
Saveとは
Ourとは
Soulsとは何なのか
知ることもないまま
初雪を告げるニュースは
いつまでも終わりつづける



台所の床は
肉や野菜や不定色の液体に塗れている
雑多な砂漠の中央で女は
刻むものを失い呆けている
その横を
不細工な鼠が通り抜け
玄関のドアにぶつかり破裂した
乾いた音をたてて
二人は傾いた

文学極道

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