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作品 - 20071108_395_2440p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


バースディプレゼント

  兎太郎

えらばれたワンピースが歌っている、桔梗色して、
セーラー襟(カラー)には 純白のほほえみ 
そのしたでねむる黒豹
昼さがりの秋の陽の沈黙が マゼンタの毛なみをぬらしている
ちいさなあかい花ちりばめた地肌がすけてみえる
黒豹はねむりながら 魚たちに接客する
魚たちのよろこびのため こんこんとねむりつづる

誕生日にはぼくのかのじょも魚になる
水中花のあいだをおよぐ群れにくわわって 
しなやかに 珊瑚色のカーテンのむこうにきえていった
半魚人のぼくはただよいながら 待っている、
魚たちのよろこびがつむがれているあいだ

――待つことができなくて ぼくはみてしまった
そこは母胎のしずけさをたたえたアトリエ 
テーブルの上 みおぼえのあるふたつの手 
ついさっきまでぼくをみつめていたふたつの眼球、
瞳の色素がぬけて きらきらと女王さまの宝石のよう
そして豊満なぶどう 籠からこぼれおちそうになっている

黒豹はめざめ すらりとたちあがる
桔梗色した歌は なれた手つきでトルソからはがされる、
セーラー襟(カラー)に純白のほほえみ留めたまま 

「プレゼントになさいますか」
「はい、かのじょの誕生日なのです」
「冷凍パックにしていただいたほうがよろしいかと」
「それではそのようにお願いします」

チョコレートのようにとけてしまわないために つめたい包装紙
そこにはちいさなあかい花柄 
黒豹の つややかな漆黒にぬりつぶされ 
もはやみえなくなった 地肌にあったのとおなじ花柄
エメラルドグリーンのりぼんがむすばれて
ぼくは半魚人のまま ひとりぺたぺた それを手にさげあるいていく、
いちょう舞いちる 喪失のあかるさのなか 

文学極道

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