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作品 - 20071005_151_2368p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


キチ(ピーッ)妄想

  ベイトマン

平行線状に血が滲む唇を拭って俺は喘ぐ。俺は自分で神を作り上げ、俺は少女を生贄を捧げた。神々はつねに血に渇いているのだから。
生きた少女を絞殺して神へと供物としたんだ。死んだ少女は神からの神聖なお下がり、俺は屍で長年の願望を叶えた。
俺は少女の屍がたまらなく欲しかった。少女の腐った死体とセックスする──それが子供の頃の憧れだった。
腐れ爛れた少女は俺のダッチワイフだった。蝿がたかって肢体に蛆が湧き、それでも抱き心地は良かった。
凍りつくような冷たい粘液に覆われた内側がまぐわう己自身を滑らせる。眩暈に侵され、手足をからませあいながら、俺はかなたこなたに揺れる少女の鼻先を食いちぎった。
指でつまむと溶けた緑色の肌が剥がれ、腐汁にまみれた少女の内面が浮き彫りにされる。少女が俺だけに曝す一面──それを眺める時、俺の心は癒されるのだ。
目頭を揉んで俺はいつまでも死んだ少女を見続けた。二人だけの穏やかな時間に揺られて、俺はオルガスムスの歓喜にシンクロする。
赤錆色の鉄格子、張り巡らされた蜘蛛の糸、日中の光さえ差し込まぬ独房で頼りない意識のまま俺は身体を丸めてすすり泣いた。
胎児のように身体をまるめて俺はすすり泣いた。朽ちかけた白い壁に背を向けて、全身に鳥肌をたてながら、一体誰なんだ。
誰が俺にこんな孤独をもたらしたんだ。このままでは寂しさに押し潰されしまう。俺の精神が悲痛に打ちひしがれて変容する前に、誰か少女の骨を食わせてくれ。
転がるのは瓶詰めの赤ん坊とタランチェラ、白癬菌を煩った首が痒くてたまらない。死を恐れぬ野蛮人は殺し殺され虫の息になった男達を慰める。
コインが五メートル飛んだ。飛んだコインが砕け散った。そのコインがチャリン、チャリンと鳴るんだよ。何か哀しい事でもあったのかい。
毒々しい褐色の垢、破れかけた布団、こめかみが痛い。俺は小さい欠伸をもらして瞼をこすった。
汚物の懐で俺は揺蕩う。監獄は仄白い世界、個数で人を数える看守は囚人を人間扱いしないんだ。一個、二個、三個……一個壊れたか。
せいぜい俺に残された自由は布団の中でマスをかくのが関の山。
膀胱がやけに冷たいよ。このまま漏らしてしまおうか。屎尿の匂いはもう嗅ぎなれてる。ストレスで神経や胃腸が壊れた囚人は首を吊って自殺した。
なんて幸せな囚人なのだろう。自殺できるなんて。罪の浄化などここには存在しない。囚人を洗脳するか狂わせるかだけだ。
外部から肉体的苦痛、精神的な責め苦を与えて囚人を思考停止にして操り人形にするだけだ。
愚鈍な赤い玉が脳内に侵入し、俺の頭蓋骨を圧迫する。思考が停止するほうを選ぶのか、それとも精神が停止するほうがマシか。
俺達は人間以下の物体として扱われる。それなのに心だけは気高い。俺が犯した少女殺しは社会科学の見地から正しい行動だった。
人権を掲げるこの日本で、至高存在を創造した俺がなにゆえ狂人扱いされるのだろう。神々は渇くのだ。
だけど精神科医は俺に言うんだ。今の時代に自らの妄執と想像で作り上げた神の為に人を殺すのは異常だと。
人間だけが裸になるのを恥ずかしがる理由とは何かを暇つぶしに議論を交わす看守がふたり。
看守A曰く、人口を制御する為のプログラムなり。もうひとりの看守が反論する。看守B曰く単純に時代社会の変化なり。
どこかの本の受け売りを熱く語る看守に幸あれ。俺も人のことは言えないが。七年以上の懲役を受けた在日朝鮮人は明後日には本国へと強制送還される。
自分の国の言葉も喋れない日本で生まれて日本で育った朝鮮人は、自国で異邦人となり、苦しむのだろう。
コンクリートのシミは黒い蝶になって羽ばたいた。支離滅裂だ。くそ、喋るのもいい加減飽きてきた。それでも俺は喋らずにはいられないんだ。

文学極道

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