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作品 - 20070928_890_2351p

  • [優]  Seashore - 宮下倉庫  (2007-09)

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


Seashore

  宮下倉庫

 
 

 
濃紺のシーツは床まで垂れ下がり、Seashoreは春だと誰もが知る。巻き煙草のゆらめき
の中、ジーンズの裾をひきずりながらいくおまえは/風紋だった/呼鈴が鳴る。玄関で
手紙を受けとる。ひらかずにそれを壁のコルクボードに、画鋲で留める。ペーパーナイ
フを机の引出からとりだし、濃紺のシーツに、ほとんど平行にあてる。滑らせていく。




どんな部屋にも
ひとりくらい幽霊がいるものよ
そうだな
だからこの砂浜には
足跡ひとつつけられない
おまえは
俺の右手から吸いかけの煙草を
抜きとり
灰を 落としてはいけないの
そう言って
空に投げる
灰が 北に流れていく
ジーンズの裾が
波に洗われている
俺はここが
春だと知る




息を、失くしている。足跡を、波が浚う。ひらかれていく、とじられていたあらゆるも
の。しゅるると切り裂けていく濃紺の海は、冬のほつれのようで、おまえの糸切り歯の
ように、優しい。ひらかれた南向きの窓から、風がふきこんでくる。吸いかけの煙草が、
机の上の灰皿で今、燃え尽きる。画鋲で留められた手紙の封がひらいて、砂がこぼれ落
ちている。風はシーツを撫で、風紋を形作る。そして部屋には誰もいない。
 
 
 
 

文学極道

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