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作品 - 20070922_787_2341p

* 著作権は各著者に帰属します。無断転載禁止。


待ち合わせ

  ミドリ


成田空港で 待ち合わせをしている
クマに逢うために
まなみは化粧室でリップをひいていた
ボストンへ出張していた彼が 帰ってくるんだ
ボブヘアーになっている私を見て
きっと彼は驚くわと
まなみは思った

飛行機の到着時間は
予定通りだった
人ごみの中
一際背の高いクマが 彼が
ゆっくりとこちらに歩いてくるのが見えた
彼はネクタイを緩め
サングラスを胸のポケットに仕舞い
はにかんだ笑顔で私をグッと抱きすくめた

「お帰り」
「ただいま」

半年ぶりに出逢う彼の胸の中のぬくもりに
思わず
涙がこぼれそうになった

「元気そうだね」
「あなたこそ」

そういうと彼はまるで
勢いよくプールに飛び込むみたいに
私にキスをくれた

「色々あったよ」
そう言って ウィンクする彼に
私は少し不安を覚え
「全部 全部その話を聞かせてよ」っていうと

「全部を語りつくすには
一生かかっちまうよ」
そう言っておどけてみせた 顔をする彼の肩に
私はギュッて
思い切り抱きついた

通りすがりの子連れの母親が
「クマだ!」って
彼を指差すわが子に
「見ちゃいけません」って注意をしている

彼はポケットからチューインガムを取り出し
子供に手渡した
「何だクマのくせに!」って
その子は彼に悪態をつき
ガムを床に投げ捨てた

母親はあわててキュッと子供の手を引っ張り
その場をそそくさと立ち去ってしまった

ガムを拾い上げる
指先を見つめる悲しげな彼のその横顔が
私には
この世で 一番美しいもののように 見えた

文学極道

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