蝉の鳴かない朝でした
胸の端からほどけてゆくひかり
できたばかりの海は睫毛に乗る軽さ
静かに浮かぶ顔に人知れず声を燃やす
髪を結んで横たわる
約束、と呟いて水より生まれし数字を忘れてゆく
墨絵の空が一枚、句読点の雨に開く傘は
覚悟を秘めたまま決意までには少しだけ遠い
偽りあり
偽りなき
待合室の冷たい長椅子には
切手を真っ直ぐに貼れない男が座っている
まだ乙女達の脚が堅く閉じられていた頃
新しい靴が欲しかった
宝物みたいに切符を握りしめた改札口
桜を見下ろすレストラン
もう、手を洗った回数さえ思い出せない
いつの間にか誰かが九官鳥に悪い言葉を教えてしまう
薬を飲む度に
大切な名前を呼ばれた気がします
同じ話は同じ返事と寄り添っては
さほど残念そうでもなく、すれ違ってゆく
命乞いする顔色の男が咳払い、ひとつ、ふたつ
林檎を剥くのが巧い、知らない男だ
冷たい枕の下に眠れない瓜を冷やす
夜具に問いかけては
心臓のところ、指を伸ばしたその先に乳房は無い
もう違うんだよ
まだ違うんだよ
あの花を取って
と、せがんだ鎌倉には
白い夏帽子がよく似合いました
どなたか存じませんが
いつもありがとうございます
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